嗚呼、インドネシア
32話 トロウラン遺跡
遺跡めぐり その5


3.5 バジャン・ラトゥ門 Gapura Bajang Ratu S7 34'04.0" E112 23'55.5"
バジャンラトゥー門は行政区画ではモジョクルト県、トゥロウラン郡、トゥモン村、字クラトンに位置し、モジョクルト-ジョンバン街道から南へグリグック集落の交差点を東に1.3km進んだ地点にある。
この門は概観からその上に屋根を持つパドゥラクサ(paduraksa)形式の門であることが判る。安山岩でできた入口の扉の敷居部分を含んだ階段の床部分以外の主部材はレンガである。平面的には11.5mと10.5mの四角をなし、高さ16.5m、通り抜けの部分の幅は1.40mである。垂直方向では、バジャンラトゥー門は脚と胴、屋根の三つの部分に分けられる。さらにこの門には二方向に向かって翼と塀がついている。門の脚の部分にはスリ・タンジュン(Sri Tanjung)の物語が描かれたpanilの装飾が施されている。胴体の部分には蔓科の植物とともにサソリの装飾が施されている。一方、四角形の頂上を持ち層状に積み重なった形状の屋根になっている。この屋根には装飾が施されている。ライオンに挟まれたサソリの頭、太陽の浮き彫り、脚のある竜、ガルーダの頭部との浮き彫りと一つ目の巨人キュプロスの浮き彫りがある。これらの浮き彫りは危険を回避し神の加護を求める機能を有している。門の右側の翼に当たる部分には、巨人とサルとの戦をモチーフにしたラマヤナ物語の浮き彫りで飾られている狭いpanilの形状をした塀でできている。扉の左右には耳が長い動物の彫刻がなされている。バジャンラトゥー門の名称は1915年のOudheikunding Verslag (OV)に初出した。この門を調査した専門家の話では、バジャンラトゥー門は1328年のジャヤネガラ王の死去と関係があるとのことである。パララトン(Pararaton)書では「Sira ta dhinarmeng kapopongan, bhiseka ring Crnggapura pratista ring Antawolan」とジャヤネガラ王が1328年に死去したと言っている。クロム(Krom)によると、パララトン中のアンタウラン(Antawulan=現在のトゥロウラン)はナガラクルタガマ中のクリ・ランガプラ「Cri Ranggapura」と同一であり、一方パララトン中の・クルガプラ(Krom Crnggapura)はナガラクルタガマ中のアンタルサシ(Antarsasi)と同一である。それゆえ纏めると、ジャヤネガラ王のダルマ(聖所)は別名クルガプラあるいはクリランガプラというカポポガン(kapopongang)集落にある。聖なる建物プラティスタニャ(Pratistanya)はアンタウランあるいはトゥロウランにある。このように、バジャンラトゥー門は、サカ暦1328年にウィシュヌ神としてこの世に再生するとナガラクルタガマ中で言われているジャヤネガラ王の死去を記念した聖なる建物に入る入口であると考えられている。この考え方はスリタンジュンの浮き彫りや輪廻からの解放の象徴を意味する門の翼の存在が支えている。
ラマヤナの浮き彫りや耳の長い動物の浮き彫り、竜の浮き彫りから見ると、この門の建設時期ははっきりしていないが、バジャンラトゥー門は13から14世紀のものであろうと思われる。1915年にオランダ東インド政府が行った硬化作業以外には建設当時からこの門はいまだかつて復元されたことはなかった。1989年に、バジャンラトゥー門の復元が始まり、1992にこの作業は終了した。

南側入口付近から

南から、手前の道路は修復時に付け足したもので、門の中心を通っていないのがさすがインドネシアである。

門のカーラの彫刻
現在でもバリで行われている彫刻と全く同じものである。

1981年の修復前の状態

修復工事中

レンガの積み上げ作業

1993年の修復後の状態
筆者註
 この門のガイドの話では、この門の左右には地表に残っている基礎の上に塀が続いていたが、近隣住民が取り外したものもあるとともに、修復作業の際に取りはずしたものもあるとのことであった。
 この門から東側20mに柵があり、その外まで塀はつながっていたが、私有地であったため塀はすべて撤去されてしまった。ただし、この公園になっている地域は古くから「マジャパヒトの土地」として近隣住民に知られていて、耕作地にはせずこの門の北側は墓地となっていたとのことであった。
 また、結婚式などのお祝いには村人たちがこの公園に集まり幸福を祈るとのことである。

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2007-05-19 作成
2015-07-10 修正
2016-08-23 更新 

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