第二話　不倫に関する考察（その1）

2000-06-22　「よろず宗教掲示板」に投稿したものに一部加筆修正しました。　
ずーっと前になりますが、Beat2001さんとIcaさんとの間で、イスラムでは婚外性交渉を認めているかどうかが議論されたことがありました。それはクルアンの下記の文章から出たものだと記憶しています。
Fiqhには本件に関する記載がありませんでしたので、友人であるアンダラス大学の助教授に尋ねたところ、イスラムでは婚外性交渉は大罪にあたるが、ムスリムの間ではKawin Kontrakが許されているとのことでした。　

度欲の買ったFiqhには「女奴隷との性交渉」の話はありませんでした。それで、先ほどの、イスラムを深く勉強している「知恵のある」ムスリムの教授に話を聞いてきました。ちゃんとした大学で工学博士号を取った人で、生粋のミナン人です。

クルアンの「4-婦人章」の第24節にはこうあります。
また、あなた方に(禁じられている者は)、夫のある女である。ただしあなたがたの右手の所有する者(女奴隷)は別である。これはあなたがたに対するアッラーの掟である。これら以外は、すべてあなたがたに合法であるから、あなたがたの財資をもって、(良縁を)探し求め、面目を恥ずかしめず、私通(のよう)でなく (結婚しなさい)。それで彼女らと、交わった者は、定められたmaharを与えなさい。だが、maharが定められた後、相互の合意の上なら、(変更しても)あなたがたに罪はない。　本当にアッラーは全知にして英明な御方であられる。

同博士が言うには、婚外性交渉はもともとズィナ(大罪)であり、相手が自由民であっても奴隷であってもおなじことである。

度欲が思うに、　ムハンマドの時代には戦争で捕獲した奴隷は物と同じように売買の対象となり、主人の欲望を満たすために、女奴隷との婚外性交渉が頻繁にあったはずである。
その結果は、妊娠・出産である。主人は自由民で奴隷は非自由民であるから、その子供は自由民でありながらも非自由民にもなってしまう。「こりは困ったじょ」ということになり、女奴隷と交渉を持つ場合には彼女を自由民として格上げして結婚することにする。それは性交渉の前後を問わない、と定めたのであろう。
それゆえ、続きの25節には、

あなたがたの中、信者の自由な女を娶る資力のない者は、右手の所有する信仰ある女を娶れ。

と書いてあるのであろう。

単純系でいうと、maharを払えばそれで性交渉をして良いことになるのである。だから、アラブのウマイヤ王朝時代から、短期滞在先でmaharを払って形式的に結婚したことにして性交渉を行い、出発時には離婚するという手段が取られてきた。これが今で言うkawin kontrakなのである。本来ならこれは禁忌なのだが、現世の圧力に負けてしまったものである、と博士は言っていた。はー、情けないのはムスリムなのである。

彼は続ける。しかし、掟にしたがっていかにしようとしても、結婚というのは死ぬまで継続すべきものであり、時限結婚はもとより離婚も薦められない。あくまでも人間という理性の上に立ってクルアンの内容を解釈すべきである。

　したがって、イスラムは知恵のある者、考える者にとって有効であり、そうでない者にとってはイスラムの効力は利用できないのであると言っていた。正しいイスラムの道を進むにはまず第一に人間性がなくてはならないのである。それがなくては信仰も宗教も成り立たないのである。人間性がもっとも基本で大事なものである、と強く主張していました。

　したがって、

「ヒトである前にムスリムでありたい」ということはできるが、

「人間である前にムスリムでありたい」というわけにはいかないのである。

　その証拠として、クルアンの「87-アル・アアラー章」の第6以降にはこうあると指摘する。

6- われは、あなたに読誦させるようにした。それであなたは忘れないであろう。
7- アッラーの御望みがない限り。本当にかれは、表れたものとと隠れたものをしっておられる。
8- われはあなたに(道を)平坦で、安易にするであろう。
9- だから訓戒しなさい。訓戒は(聞く人に)役立つ。
10- 訓戒は、主を畏れるものに受け入れられよう。
11- だが、もっとも不幸な者は、それを避けるであろう。
12- かれは巨大な炎で焼かれよう。
13- その中で、死にも、生きもしない。
14- だが自ら清めたものは必ず栄え、
15- かれの主の御名を唱念し、礼拝を守る。
16- いや、あなたがたは現世の生活の方を好む。
17- 来世がもっと優れ、もっと永遠なものであるのに。
(以下略)

この文にある「訓戒」に相当するインドネシア語は、peringatanでした。Peringatanとは、注意・警告や記憶・注釈・回想となっています。
同博士によれば、「自分の頭で考えろ」ということだそうです。「29の知性と感性を閉ざす理由」にも「22. 愚かさ、無知 知識の欠けたイバダー」として「よく勉強せよ」が入っていましたよね。

初稿　2000-6-22
頁作成　2009-09-12
訂正 2016/09/11