嗚呼、インドネシア
53話 ワリ・ソゴへの突撃妄想インタビュー
第七章 スナン・クドゥスSunan Kudus
スナン・クドゥス。彼は中部ジャワ、とりわけクドゥス地方を中心にイスラムの教えを広めた。イスラムの学問に通じていたので「ワリユル・イルミ(知識の聖人)」とも呼ばれている。
インタビューアー お答え
- 失礼します。スナン・クドゥスさん。お休みのところをお邪魔して申し訳ございません。えー、私、度欲と申します日本人で、インドネシア、特にジャワに思い入れをしている者で…………。
おー、来たか。まあ入りなさい。仲間から色々と聞いていたから、やがてワシのところに来るのは分かっていたよ。ワシの名前はイランのシーア派のイマムの名前から取ったものではあるが、イラン人とは違って昼から強い酒は勧めないから大丈夫だ。何を飲むかね。
- はあ、お心遣いありがとうございます。暑いからビールでもかまわないんですが、イマムのお宅でビールを飲むのも気がひけますので、なんでもかまいません。早速ですが………、スナン・クドゥスさんはどちらのお生まれですか。
ワシは名前どおりクドゥス近郊の今のDawe付近の生まれだ。
- 容貌から拝見しますと、純粋のジャワ人ではなく、よその民族の血が混じっているようですが。
うん、そうじゃ。わしの先祖はアチェから来たのだ。それゆえ少しジャワ人とは顔つきが違うのだ。
- マジャパヒトを攻め滅ぼして、王宮の扉を持ってきてモスクの扉にしたというのは、スリウィジャヤ滅亡との関係があるのでしょうか。
面白いことを尋ねる御仁じゃな。確かにスリウィジャヤ王朝の末裔がアチェにもいるから、滅亡の恨みを晴らそうとしたとでも言いたいのかね。
- そうだったら、結構面白い話になりそうですから。
残念ながらそうではない。この扉は戦利品であるが焼いてしまうにはもったいないとてもすばらしいものであるのでモスクに使ったのだ。スリウィジャヤ王朝は仏教を奉じていたから、ムスリムのワシにはその恨みはない。
- イスラムの学習はどちらでされたのでしょうか。
アチェのパサイにある有名なイスラム学校だ。
- 新しい信仰がその土地に入るときにはかならず土着信仰との混交が行われるのですが、ジャワの土着信仰であるアニミズムとの混交に関してはどのように処置されたのですか。

度欲君、これがなかなか難しい問題だったんだよ。それまでのジャワの信仰ではヒンドゥー教と仏教が土着信仰の上にかぶさっていた。知ってのように、ヒンドゥー教ではカースト制度があり、商人たちは下のカーストで抑圧されていた。このカーストを撤廃することで、商業で力を得た商人たちの支持を得たのだ。だから、商人の多い都市部ではイスラムがどんどん普及していったが、山間部などの純農業地帯がイスラム化したのはつい200年前だった。だから地方には多数のプレ・イスラムの遺跡が多数残っていて村人たちは表面上はムスリムになっていても心はまだ土着信仰に縛られている。これはクジャウエンと呼ばれようともやむを得まい。
- そうでしたか。尋ねにくい質問ですが、今はどちらに住んでいる人の体にあなたの魂は宿っているのでしょうか。
相変わらず答えにくい質問だなあ。今はラオスのビエンチャンにいる50歳台の男性に宿っている。
- 長々とどうもありがとうございました。
せっかくいれたんだからコーヒーを飲んでいきなさい。
- はい、ありがとうございます。ゴクリ。 ん、これはおいしい。アラビカとモカのブレンドですね。
おー、味が分かるか。
- はい、自分の仕事よりもこういうことの方が得意ですから。(笑) では失礼します。
 スナン・クドゥス(Sunan Kudus)、別名ジャファル・シャディク(Ja'far Shadiq)はクドゥスの創設者であり、人形劇(wayang golek)が出身であるとも言われている。(度欲註:意味不明) 彼は奪ったマジャパヒト王宮の扉を使ってクドゥスのモスクを建設した。スナン・グドゥン(Sunan Ngudung)と呼ばれた父親から王権を受け継ぎ、1550年に没した。

 スナン・クドゥスの別名であるジャファル・シャディクは、6世紀から12世紀にかけてイランで発展したシーア派のイマムの名前でもある。興味深いことに、現在のクドゥス町には、スナン・クドゥスの墓所にかかっているカーテンを取り替えるブカ・ルウール(Buka Luwur)と呼ばれるお祭りがある。このお祭りはムハラム月の10日に行われている。この日はシーア派のイマムであるフサインが虐殺された記念日でもある。これは、ジャワの北海岸の諸港にはイランやインドからの旅行者が多数あったために、彼らの文化の影響が残っているゆえなのかもしれない。
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2008-09-01 作成
2015-03-16 修正
 

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