インドネシア不思議発見
44話 腰巻きについて

 今回は男女の着用する腰巻きについてお話します。「腰巻きの中身」の方に興味がある方が大多数でしょうが、ここではもっぱら腰巻きそのものについて書きますので、期待しないでおいてください。
インドネシアの人たちが腰巻きをしているのをよく見かけると思います。モスクに向かう男性達のほとんどは腰巻きにペチですよね。また、ジャムゥ売りのお姉さんやおばさん達も腰巻きをしています。「トッカンジャムゥの制服だ」という人もいますが、これはちょいと眉唾物です。


 さて、これらの腰巻きスタイルはインドネシアを東端として、インドシナ諸国はいうにおよばず、インドからアラブ社会まで広がっています。
 アラブでは何と呼んでいるのかは聞き忘れましたが、インドシナ諸国やインドのベンガル州ではこれらの腰巻きをロンジー(ロンギー)と総称しています。一方スリランカでは、一枚の布のものをロンギー、縫い合せて筒状になっているものをサルンと呼んでいました。
インドネシアの特にジャワでは、一枚の布のものをカイン、筒状のものをサルンと呼んでいます。一般にサルンは男性が使っているのを見受ける場合が多いのですが、女性でも自宅で礼拝する時には自分のサルンを使っています。一方、カインは女性が使う場合がほとんどですが、結婚式などの正装の場合には男性も全てカインです。和服と同じように男女とも前合わせのしかたが同じですが、カインの端は着物と反対に左足の前に来ます。
 さて、まずサルンについてその利点・欠点などを考察してみましょう。

利点としてあげられるのは、一枚の布を縫っただけですから、洗濯が簡単で乾きが早いことが言えます。また立体裁断していないのでアイロンがけも簡単です。

 サルンの長さは普通くるぶしまであるので、あぐらをかいてサルンで脚を全部覆ってしまえば露出部分がなくなることから蚊に刺される可能性が少なくなります。マラリヤやデング熱などを防ぐ意味で、蚊に刺されないことがインドネシアでは最大の健康保持方法の一つになっています。
 大きい布ですから、明け方の寒い時には巻いてある部分を伸ばして肩まですっぽり被うことができます。風呂敷きのように何かを包むことはできますが、余り見かけたことはありません。旅行の時にサルンを一枚トランクの隅に忍ばせておくと、何かと便利です。バスタオル代わりにも毛布代わりにも使えます。また、川で女性が水浴する時にも裸を見られないようにサルンを巻くのが普通です。
 半ズボンでは毛脛が見えてしまいなんとなくみっともありませんが、サルンならその点は大丈夫です。
 お尻側は一枚の布ですが、前は五枚になって余裕があります。布のこの余裕がある部分が役に立つのです。インドネシアは高温多湿です。ですから、男性の場合にイチモツが体の他の部分に汗ではりついて湿疹やインキンになりがちです。まず、太股とタマタマの間に布を挟み、イチモツとタマタマの間に布を挟みます。布の間には風が通りますから、敏感な粘膜質の部分がそれぞれ直接接触しなくなり、汗をかかなくて済みます。 このように巻いたあと、上からぐるぐると巻きおろして止めます。
 欠点としては、長いために動きにくいことが言えます。第三十一話 「インドネシア人の仕草」でお話したように、人の前を横切る時には手を体の前に添えて、日本人が良くやる「前を失礼!」という仕草をします。これはサルンでテーブルの上の物を引っかけたり、サルンの臭いを撒き散らさないような理由があるのでしょう。

 こんなに便利なサルンを使わない手はありません。さっそく着用してみることにしましょう。

 まず、お店でサルンを買う時に注意しなくてはならない点があります。@長さは着る人の乳首からくるぶしまでのものとする。A材質は混紡で良いが木綿の量の多いものを選ぶ。B色は肌の色にあわせる。C買ってきてすぐにサロンを素肌につけるのは不潔ですから、まず洗濯します。D必ず色が落ちますから他の洗濯ものと一緒にしない、ことが必要です。

サルンを選ぶ時にはこのくらいかもう少し長めが最適です。まずは、両手で端をつかむ。

右側の布を左前に持ってきて左の腕で布を落ちないように抑える。ここで小首をかしげることはマルで意味がないのである。

左側の布を右に持ってくる。ここでニヤニヤしなくてもサルンはちゃんと巻けるのである。

左前に持って来た布を右に引っ張り出して左に持ってくる。

布の端をぐるぐると巻き込む。

後から見るとこんな感じです。

 上図にあるように上手に巻きます。いつもサルンをしている人に教えてもらうのが手っ取り早い練習方法です。最初のひと月間は朝になるとほどけてしまいますが、慣れてくれば、どんなに寝返りを打ってもほどけないようになります。
 次は、カインです。カインは全く一枚の平布で、縫ってもありませんから、籠や子供を背負うのにも使っています。利点はサルンと同じで、問題はやはり動きにくい点にあります。
 カインの寸法に余り変わりはないようで幅は1.05m程度で、長さは2mちょっとです。

 これを体にぐるぐる巻きにして、端は左足の前に来るようにします。結婚式などでよく見かけるのはその端を三センチくらいの幅に何段にも折ってフリルのようにしています。家の格式によって七段、九段と違いがあるようですが、今では余り構わなくなってきているようです。カインをつける際にはこのフリルの部分の折り目をきちんと揃えておくことが重要なようです。
 女性がカインをつけた時には、クバヤがお尻の上で終わっていますので、お尻の形がそのまま見えてしまいます。インドネシアの女性たちは日本人に比べてお尻の形がきれいなので、体型がそのまま見えるカインが民族衣装になったのではないかと思っています。女性の体型と民族衣装については、第30話「体つきと民族衣装など」に詳細を書いてありますのでご覧ください。 「日本人は横に脂肪がつくがインドネシア人は前後に脂肪がつく」とインドネシアに長い友人が言っていましたが、そのとおりです。

 カインの場合には幅が短いので、サルンのようにぐるぐると巻き下げる訳にはいきませんから、上端をちょっと折り込み、紐で止めた上に幅10cmくらいの帯を巻きます。この帯は丈夫なもので、時々首吊り自殺に使われるほどです。帯で体をぐるぐる巻きにするので、出産後の胃下垂などが防げるとのことです。
 さて、カインと体の間にはもちろん下着があります。男性の場合はトランクス型のものをはいています。女性の場合にはパンティではその筋が見えてしまいますので、見えないような長いパンツをはいているようです。これ以上詳しい調査は読者諸兄がご自分でなさってください。

目次に戻る 不思議発見の目次に戻る

1998-03-21 作成 ジャカルタにて
1999-12-26 訂正 下尾稔氏のご協力を仰ぎました。 スンガイダレーにて
2002-08-16 更新 読みやすく改訂と写真を追加
2015-03-05 修正
 

inserted by FC2 system