インドネシア不思議発見
32話 地上交通機関

嗚呼、インドネシア」の第3話にまとめなおしましたので、こちらをご覧ください。
ジャワ島の鉄道は「嗚呼、インドネシア」の第12話をご覧ください。
以下は1996年に初稿を出し、その後2002年頃までに訂正したものです。
ですから、第3話とは少し異なります。


1. 鉄道
 鉄道を利用された方はご存知とは思いますが、バンドゥンとジャカルタとを結ぶパラヒヤガンとスラバヤとジャカルタを結ぶスルヤジャヤ(列車愛称はしばしば変わるので注意)以外はしょっちゅう遅れます。それも十分単位ではなくて時間単位で遅れるのです。日本では列車が大幅に遅れることは事故や天災以外にはまずないので、不可解至極なのですが、インドネシアでは当然のことになっています。特に雨期には線路が冠水したり土砂崩れで運休することもしばしばです。もちろん駅での列車遅延のアナウンスもほとんどありません。

 列車が恒常的に遅れる理由の第一は、公務員である鉄道員たちに時間厳守の気持ちがないことだと思います。第二には、ほとんど全線が単線なので一つの列車の運行が何らかの理由で遅れると列車交換などの都合上、次の列車がさらに遅れるといった物理的な要素もあります。第三には車両故障が多く、機関車の取り替えなどで時間がかかることがあげられます。ですから、時間に追われるインドネシアのビジネスマン達は上に述べた二種類の列車以外には乗らず、飛行機や自家用車を使っています。

 インドネシアの鉄道は以前の日本の国鉄のような公社(Perumka改めPTKA)によって経営されています。でもこれは全てではなくて、ジャカルタ・バンドゥン間を走るパラヒャガンは独立した陸運会社が線路と車両をPTKAから借り上げて営業していると聞きます。また、PTKA独自の理由で列車が遅延すると罰金を払う約束になっているらしく、本線の自社の列車が遅れるとそれを側線に追い込み、パラヒャガンを先に通すため、余り遅れないと聞いています。しかし運賃がバスに較べて数倍も高いので乗客の数が限られています。このパラヒャガンのほとんどはジャティネガラからバンドゥンまでNon-stopで走り続けます。この列車はエクスクティブ(一等冷房車)だけの編成とビスニス(冷房なしの二等車)併結のニ種類があります。大気汚染と事故の危険の少ないこの列車はほとんど全便満員ですが、会社は列車を増発しようとしないのが不思議です。

 ジャワ島の鉄道の幹線はジャカルタとスラバヤをつないでいる南北の本線があります。ジャカルタからの出発駅は本来はJakarta Kota駅ですが、大多数の列車はガンビル駅が始発になっています。他にもパサル・スネンやタナ・アバンからでる列車もあります。これらの駅からではジャカルタの今の中心部に向かうには遠すぎるのか、それとも出発駅を統一したいのかは分かりませんが、マンガライに新しい旅客タ-ミナルをつくる計画があります。

ジャカルタから東に向かう本線はチカンペックでバンドゥン線を分岐し、チレボンに到着します。南幹線はこの駅から北幹線と分かれ、南下しクロヤでバンドゥンから来た線と交わり、東に向かいジョグジャカルタ、スラカルタ(ソロ) を通りスラバヤ市の南側から終着のスラバヤグブン駅でおしまいです。また北本線はチレボンから東にまっすぐ向かいスマラン市を通り、スラバヤ市の東から終着のスラバヤパサルトゥリ駅に至ります。この両駅間には数キロメートルの連絡用の線路が引かれていますが、旅客列車は走っていないようです。友人によると、最初にジョグジャ経由でスラバヤまでの南本線が建設されたのですが、迂回するので距離が長くなることと、チレボンからクロヤまでの山岳部で時間を食うため、最短時間でジャカルタとスラバヤを結ぶためにスマラン・スラバヤ間に鉄道を敷いたとのことです。この両本線の運営会社が違っていたようで、おのおのの営業範囲を守るためにスラバヤ市での到着駅を変えたとのことです。

中長距離列車の運行時刻表はこちらにあります。念のため旅行出発前には駅で出発時刻などを確かめてください。
たまに列車が走っているをみかけると乗客が鈴なりです。また連休前後は切符を買おうと思ってもなかなか買えません。こんなに混んでいるのにPTKAの経営は赤字です。エコノミ(三等)の旅客運賃が政令で低く抑えられているのもその一因ですが、じつはもっと大きな理由があります。ただ乗りが実に多いのです。毎朝の通勤時間帯でも旅客が団体を組んで車掌とネゴして大幅割引をさせてしまうのです。ですから旅客が沢山いても儲からないとのことです。これを防ぐためには、到着地までの運賃を出発駅で払ってしまう方法があり、現在この方法で運賃収入をあげようとしています。ですから長距離列車に数十キロだけ乗っても数百キロの運賃を払わなくてはならないシステムになっています。もちろん途中下車した場合は前途無効です。

 普通列車の運賃はバス代よりも安く、一般庶民の足になっています。ですから、途中からは社内は食べ物のかすやビニ-ル袋やらごみだらけで、「走るごみ箱」になっています。トイレも思わずウッと唸ってしまうほどの芳香を放っています。これに較べてバスはわりときれいです。

 もうひとつ。ジャカルタ・ボゴール間を除いてホームに駅名が書かれていません。そのかわり、駅構内に入る線路際にあります。「そろそろかな」と思ったら、列車が駅に入る前に自分で確認するかあるいは、隣の人に尋ねなければわかりません。インドネシア人たちも普通そうやって降りる駅を確認しているのですから恥ずかしいことはありません。

 ジャワ島を車で走っていると、道路の横に廃線になったレ−ルをよく見かけます。日本ではあまり国道の横に鉄道が併設されていないので不思議な感じです。これは鉄道を建設する際の輸送を道路で行ったためではないかと想像しています。また1970年代の前半までは道路の整備が遅れていて、穴だらけのがたがた道をのそのそ馬車で走るよりも鉄道の方が速かったからではないかとも思います。道路が整備されて本舗装になると鉄道は当然廃業の運命となりました。
 ジャワ島の鉄道の軌道は日本と同じ1067mmを使っています。それで、日本で蒸気機関車が廃止になったときにそのままインドネシアに持ってきて使っていました。20年ほど前まではD51などの汽笛が夜空に響いて望郷の念をかき立てることがありましたが、ディ−ゼル化により、この懐かしい音も今では聞こえなくなりました。

 1990年に偶然列車で隣り合わせになったインドネシア国鉄のバンドゥンの車両工場長によると、蒸気機関車の時代には故障や定期点検時の修理も簡単で機関車の稼働率が高かったのだが、外国からの無償援助でディーゼル化したところ、欧州製の機関車は部品の交換頻度が高く、また部品の値段も高いので、交換部品が買えないため動かない機関車が相当数あるとのことでした。というのは、蒸気機関車の場合に頻繁に交換するのはボイラ−の水管だけで、これは溶接などで簡単に修理ができること。その検査も水圧テストだけで済むので手間はかかるがコストはかからないということでした。また、軸受けなどの他の部品の消耗は少ない上、彼ら自身でこれらの部品を作ることができるので、まったく問題がなかったとのことでした。一方、ディ-ゼル機関車はその部品点数が蒸気機関車の点数に比べて格段に多いことと、欧州製の機関車は初期コストが安い高速ディーゼル機関を使っているので、アメリカ製の低速ディ-ゼル機関を使っている機関車に較べて部品の交換頻度が高いとのことでした。さらに、これらの部品はいちいち本社経由で輸入しなくてはならず、資金不足のうえ官僚主義の国鉄ではなかなか緊急輸入も難しいといった問題があるそうです。比較的維持の簡単なアメリカ製の機関車は価格が高く、この点で資金的に問題があるそうです。 そういわれれば、アメリカ映画に出てくるディ-ゼル機関車は走っている時でも日本の機関車とは違うダンダンという音がします。

列車はジャカルタ近郊を除き未電化で、交通インフラ整備が遅れています。ジャカルタは東京よりも交通渋滞がひどく、通勤に二時間かかるのは当たり前の時代になってきています。電車交通網が発達している東京では、ある鉄道が事故などで不通になっていも振替輸送のシステムがうまく働いていますが、自家用車通勤では「振替輸送」が効きませんので、大雨が降った日などは、通勤に片道5時間もかかってしまったと友人がこぼしていました。こんなに時間がかかると、ただでさえ忙しい人たちはなかなか家族との時間が持てず、家庭不和の原因ともなりかねません。このままこの交通渋滞がさらに悪くなると、「通勤渋滞離婚」などというものが出てきかねません。近郊の鉄道の計画もあるようですが、初期投資額が大きいのでなかなか難しいようです。日本人と違って歩くのが嫌いな国民性なので、便利なバスに頼りきってしまったところに鉄道事業発展の遅れの理由があるのではないかと思っています。とにかく、世界中で「歩くことがスポ−ツ」になっている国はインドネシアだけなのです。
2. 中長距離バス
 ドライブに行くと分かるようにバスは道路の王者です。中長距離バスが速いのは道路の右側を走るからです。対交車がくると、左側に自動車がいようがいまいが左車線に強引に入ってきます。また、対交車の路側に逃げきれる余裕があると、右車線内をぎりぎりに左に寄って、対交車が避けてくれるのを期待しているようです。ジャカルタ近郊で特に危ないのはCikampekとCirebonの間です。Cirebonに近くなると道路が二車線しかなく、この一般道路をバスが約100km/hrの速度で追いつ追われつして走っていますから、カ−チェイスのお好きな方はこの区間で自分で車を運転したりバスの前の座席に座って、バ−チャルリアリティならぬ、本格的な命がけのレ−スを楽しむことができます。
 バスが目茶目茶速く走るのは、他のバスよりも先に一人でも多くの乗客を捕まえようとしていることが第一の理由としてあげられます。ですから満員になった定員制バスはそれほどひっちゃきには走りません。第二にはインドネシア人はとにかく速い乗り物が好きなようです。のんびりした日常の態度とは全く変わってしまうのが不思議です。中長距離バスは一つの車両での一日の往復便数が決まっていて、安全を軽視してまで速く走ることには意味がないようですが、実際はビュンビュンとばします。これは国民性なのでしょうか。
 ジャカルタの中長距離バスの主要タ−ミナルと主な行き先は次のようになっています。


タ−ミナル 主な行き先
プロガドゥン  Pulogadung 東部方面で、中東部ジャワが主。
カンポンランブタン Kampung Rambutan 南部方面で、Bandungが主。
カリデレス Kali Deres スマトラとの間のフェリーターミナルのあるMerak行きが主。
ラワマングン Rawamangung スマトラ方面の直通が主

 その他にも、中規模のタ−ミナルが郊外のあちこちにあり、各地方と主に夜行バスで直接つながっています。 詳しくは旅行会社にお尋ねください。

 これらのタ−ミナルは行き先別にホ−ムが分かれており、初心者でも分かりやすくなっています。自分の行き先がわかっていて字が読めればバスの利用には問題ありません。ハリラヤの繁忙期を除きこれらの主要タ−ミナルから出るバスには予約なしで乗れるものが大多数ですが、夜行デラックスバスは予約が必要です。それほどお金に窮してなければ健康と安全のために「PATAS AC」と書かれたバスを選ぶ方が懸命です。「PATAS AC」とはエアコン付きの定員制バスで、道路の排気ガスも社内に入ってきませんし、乗客の乗り降りのために頻繁に止まることもないので疲労が少なくてすみます。EKONOMIと書かれたバスはジャカルタの市内バスで長距離を走るようなものですから、目茶目茶に疲れます。

 東京と違いバスは24時間営業ですから、いつでもバスに乗ることができます。但し、乗客の少ない深夜から午前4時までは出発便が少なく30分以上待たされることがあります。またこの時間帯は警備も手薄になるので置き引き・かっぱらい・強盗に注意することが必要です。

 バスの構造にはフロントエンジンとリアエンジンのものの二種類があります。日本ではリアエンジンのものがほとんどなのですが、インドネシアではフロントエンジンのものが半分以上を占めています。高級バスはリアエンジンで客室に振動がこないようになっています。フロントエンジンのバスはトラックのシャ−シにバスのボディ−を乗せたもので、トラックからの転用が簡単という利点がありますが、振動や騒音、それにエンジンからの熱が、客室内にこもりますのでとても不快です。またこの手の安いバスはときどき座席から釘や針金の先が出ており服を引き裂くことがありますので座る場所には十分注意しましょう。
3.市内バス

ジャカルタの市内バスはPPDと呼ばれる市営バスとDAMRIと呼ばれるバス公社のもの、Mayasari Baktiなどの私営バス会社があります。ジャカルタ市内のタ−ミナル間と郊外とを結んでいます。バスマップもときどき発行されますから、これを参考にして日曜日には一日中バスに乗って回るのも安い暇潰しになります。市内は排気ガスがひどいのでこの点を注意して下さい。

2004年1月からジャカルタ市内の主要道路に専用のバスレーンが作られTransjakartaという会社で高速バスの運行を始めましたました。既存の道路の中央寄りの上下一車線をバス専用レーンとして使っています。当初は車線減少のため道路混雑がますますひどくなりひどい不評を買いましたが、いざ利用してみるととても便利なので批判は減っているようです。2009年8月現在のパスレーンのルートは以下の通りです。

ジャカルタ市内バス専用レーンルート図

 町の中には細い道も多いため、KOPAJAとMETROMINI、KOANTASなどという小型バスが主要幹線道路以外でも運行しています。どちらも運転が荒っぽく頻繁に事故を起こしますが、一般大衆の毎日の足になっています。 
4. マイクロバス
 ジャカルタの中北部ではOpletとかMicroletとか呼ばれているキジャンをベ−スにしたマイクロバスや、それ以外の地域ではスズキやダイハツなどの軽四輪ワゴンの後部スペ−スを客室にしたAngkotがあります。日本の軽四輪にそっくりですが、車体寸法が少し大きいのとエンジンを1000CCから1300CCにしている点が異なります。これは細い路地でもスム−スに走れるように小型にして最大20人まで乗れるようになっています。もちろん、運転手一人にあたりの運賃収入効率は悪いのですが人件費が安いことと、車両価格が安いため新規参入がしやすいことが運行者側の利点になっています。また、運行頻度が高いことから利用者側にも便利です。

 日本の官僚達は自分達が管理し易いバス会社の大量輸送ばかりに目を取られて、このような私営の超小型バスは何やかんやと理屈をつけて認可しないので、重い買い物袋を下げてえっちらおっちらと十数分も歩かなくてはならない不便を日本人は強いられているのです。こんなギョ-セ-シド-や規制は撤廃しても問題ないと思います。
 これからの日本での高齢化社会においては、このような小回りの利く超小型で、不定期でル−トもきちんとは決まっていない運賃の安い乗合バスがサ−ビスの点で大活躍することになるでしょう。 
5. タクシー
 近ごろジャカルタではタクシ−強盗がはやっています。金持ちの日本人と見ると強盗に早変わりして現金などを強奪します。昼間は何に乗っても割と安全ですが、夜は他のタクシ−と見分けのつくシルバ−バ−ドにするのが安心です。
 強盗にあわない心得として、運転手以外の人間が乗っているタクシ−には絶対に乗らないこと。運転中に脅迫されることもありますから。ドアの鍵を全て掛けること。運転手が強盗の手引きしようとしてもドアが閉まっていれば乗り込めないからです。暗いところで止めようとしたら拒否すること。人によりけりですが、乗ってすぐに運転手にガンを付けるとまず運転手の方が恐がって強盗の手引きをする機会が減ります。

 大都市を除いて、地方都市では余りタクシ−強盗の話は聞かれません。

 特に地理も分からない日本人はタクシー強盗の格好のカモですので、ジャカルタ国際空港に降り立ったら、空港内にあるゴールデンバードのハイヤーを利用することをお勧めします。到着地の地域による定額制です。この会社のハイヤーでの事件はまず聞いたことがありません。料金は一般のタクシーの二倍かかりますが、ジャカルタ中心部まで三千円ちょっとです。ケチって嫌な思いするよりもいいでしょう。

 ジャカルタでしょっちゅう使っているExpressというタクシーの運転手の話では、近頃は物騒になってきたので、ジャカルタのいくつかの地区には夜は行かないということです。強盗が多く、儲けよりも命が大切だからです。

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2000/10/16修正 スンガイダレーにて  タクシーの話を追加
2002/7/24 バトゥティギにて  地図を追加
2002/8/01 バトゥティギにて Ojek写真を追加
2002/8/04 ジャカルタにて Becak&dokarの写真を追加
2002/8/05 バトゥティギにて  Bajajとバスの写真を追加
2009/09/10東京にて  バスレーンの記事を追加
2012/01/16 東京にて 撮影日修正
2015-03-04 全面改訂
 

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