インドネシア不思議発見
18話 生活の中のイスらム-(6)

(HalalとHaram)
 インドネシアで仕事や生活をして行く上で気がつくのですが、ムスりム達は許されているもの(halal)と禁止されているもの(haram)をはっきり分けています。許されているものと禁止されているものを並べるとhalalとharamはグラデ−ションで表されることになり、実際上その線引き(デマケ-ション)をどこでしたら良いのかが問題になります。

 イスらムではこれを5段階に分けています。
  1. やらなくてはならないこと。礼拝などの義務。これをやらないと神様への内申点が下がる。
  2. やった方がいいこと。割礼などの行為。やったらその分神様への内申点が高くなる。
  3. やってもやらなくてもいいこと。
  4. やらない方がいいこと。喫煙やPeteなどを食べること。やらなければその分内申点が  高くなる。「特にインドネシアでは『会社への忠誠と仕事への情熱』が入りそうだ」と、カモカのおっちゃんでいつも一言多いザイヌディンL.Y.師が冗談まぎれで言って  いました。
  5. やってはいけないこと。飲酒、賭博など、それ以外に日本人が常識でやってはならないことと考えている事項。やると内申点が下がります。
 
まず、身近な肉類について考えてみます。第7話の「豚肉は食べないの?」に書いたように、豚肉は食物として摂取することをクルアンでは禁じています。また、蛙やいもりのような両生類や蟹のように陸と水中で生活している動物も食物ではありません。鶏や羊・牛肉などはhalalで食べても良いものになっています。

 ザイヌディン師の見解では、豚肉でもカエルでも調理後にはhalalになっているものもあるし、halalとされているも材料でも調理後にharamになるものもある。何度かブラインドテストしたが、結果は同じだとのことです。と言うことは、調理方法によってhalalかharamかが決まってくるということになります。これは第7・8話でお話したような理由ではないのかと思います。

 頑迷なムスりムは「絶対そんなことはない」と言い張りますが、ザイヌディン師よるとこれは事実です。余りにharam, haramと口うるさく言い張るなら、「インドネシア人が大好きなタパイ(タペともいう酒粕)はアルコ−ル分があるからharamだ。お前らタペをタペたら地獄に落ちるぞ」といってやりましょう。もっとうるさい相手にはいろいろな食物を並べておいてhalalかharamかをブラインドテストさせてみるのも一つの嫌がらせです。その結果は火を見るまでもなく「ダメ」です。「halalかharamかも分かる能力がないくせに、ごちゃごちゃ言うな!」と言ってやると相手はついに黙りますが、深い恨みが残りますから、相手に勝手にさせておくのが最良の手です。

 筆者は酒がとても強く相当量呑まないと酔わないので、肝臓とお財布が心配で、インドネシアでは家でも外でもあまり呑みません。それでも、筆者の住んでいたバンテン地方ではイスらムの戒律がきびしく、酒について文句を言う人たちがいます。この時にはいつもこう言い返すことにしていました。

 「医薬品には微量と言えどもアルコ−ルが含まれており、きみ達はこれを飲んでいる。自分のことを棚に上げて、アルコ−ル分を含んだ飲物をとっていると人を非難するな」と。するとこう切り返してきます。「薬は薬だが酒は酒だ」と。こちらからの反論は「俺が飲んでいるのは君達凡人には酒に見えるだろうが、これは健康保持のための薬なのだ。君達が飲んでいる薬でも、量をまちがえるとひどい目にあうだろう。酒だって同じだ」と。

 0.1%未満アルコ−ルを含有している飲物はhalalとされているそうですが、その人の体質によってとその日の健康状態によってhalalとharamの境界は数値的に一律にはきまってきません。脳が酩酊状態になる一番の原因は飲酒にあるのですが、その他の食物にもあります。また脳の酩酊状態を数値的に検出すること自体が無理ですし、それを個人差を問わず限界を一律に決めてしまうのはどうも「神の意志に反する」のではないかと思います。

 友人のムスりムたちはいろいろと筆者を脅かして断酒させようとしていますが、「酒といってもhalalにしてから飲んでいるから問題ない!」と言いきって、夕食前にはカシュ-ナッツ(mente)をつまみにビンタンを二缶あけるのが日課になっています。Halalにする方法はザイヌディン師に教えてもらったもので、酒やタバコの味を変えることができるようになります。またアクアなどの水質をおいしく変えることができるようになりますが、これにはしばらくの精進と訓練が必要です。ご希望の向きはザイヌディン師に弟子入りしてはいかがですか。あなたが受け入れられるかどうかはインシアら−です。
 余り熱心でないムスりムたちは親の前ではビ−ルを飲みませんが、友人達とはよく飲んでいる人が多くいます。ですからビ−ルビンタンの会社が潰れないのです。

[参考文献]
Pedoman & Tuntunan Shalat Lengkap (礼拝完全手引き書) Abu Masyhad著 PT.MG. Semarang刊
Tuntunan Shalat Lengkap & Wiridan dan Shalat-shalat Sunat (義務礼拝、クルアン 抜粋付きと任意の礼拝手引き書)
「気の人間学」 矢山利彦著 ビジネス社刊
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1999/12/26 修正 スンガイダレーにて  下尾稔氏のご協力を仰ぎました。
2001/11/18 修正 スンガイダレーにて  日亜対訳クルアンからの引用に変更しました。
2015-03-03修正
 

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