自作エッセイ集 第6部 ジャカルタ川の旅

 2000-05-01に友人に送った随筆に一部加筆修正したものに2015年にさらに構成を行ったものです。

 20世紀までのジャカルタでは、涼しい風の通り道は、デポックからガンドゥルを抜けてBlokMに行く。きれいな地下水もまた、この岡の中を流れていると言われていた。普段は風が東西方向に吹くのだが、降雨時の涼しい風は南北に吹き抜ける。ジャカルタ南郊の住宅地の開発が進むに連れ、地下水の汚染が増えてきている。これは雨水が直接川に流れ込んでしまい地下水にならなくなったことと浄化槽からの浸透水が地下水の質を下げている。

 おおっと。岡じゃないって?そりゃあ、オランカヤ(金持ち)は車にばかり乗っているからわからないのだ。度欲はもっと地球に優しいから、自転車専門だぁ。自転車だからどのくらいの標高差があるかをわきまえているのだ。(本当は貧乏人なのだが、矜持を保つのである)

 ジャカルタを南北に走っても比較的標高差がないのに対して、東西に走ると嫌というほどの深い谷を越えなくてはならない。
一般的に道沿いに農業用の水路(大体護岸がちゃんとあるし、分水工もある)があるところは岡の上で、暗く木が生い茂ってくねくね曲がっているのが自然河川だ。

  
 この写真の左側に見える溝が用水路

 さて、ジャカルタの南部を東西に10km自転車で走ってみよう。まずは、ポンドックチャベから、レンテンアグンまでいってみよう。


 ポンドックチャベ(Pondok Cabe=唐辛子の小屋の意味のカンプンを抜けると東側はすぐに斜面になっていて飛行場の滑走路の標高からは五十メートル以上も下るのだ。その下には暗いプサングラハン川(K. Pesanggrahan)がある。これを抜けると胸突き八丁の坂を登ってチネレ(Cinere)の住宅地である。最近ルバクブルス(Lebak Bulus=亀沼の意味)で人が流されて死んだのもこの川である。この川は、メラク(Merak)高速道路のクボンジェルク(Kebon Jeruk=ミカン園の意味)料金所の西側を通過して、チェンカレン放水路に入る。

 チネレから更に東へ向かうと今度はグロゴル川(K. Grogol)である。この川はまだとても小さくて、谷と岡の標高差は15mくらいしかない。グロゴル川はパンカランジャティ(Pangkalan Jati)のゴルフ場を貫通して、ファトマワティ病院(R.S. Fatmawati)とルバクブルスバスターミナルの中間で南環状高速道路を通過。その後ポンドックインダ(Pondok Indah)ゴルフコースを縦断して、一部はプサングラハン川に分水され、維持用水だけがクバヨランバルの西側の低地を貫通してスナヤン(Senayan)ゴルフコースをも貫通。トマンインターチェンジの西側を通過したあと、モール・チプトラの所(グロゴル交差点)で承水路(インターセプター)を経由してアンケ川に導かれる。この承水路(インターセプター)は、グロゴル川下流の伏越(サイフォン)が流水のボトルネックになっていたので、その解決のため 1990年代初頭に円借款(OECF IP-273)で建設された。詳細設計・施工管理は日建+工営であった。
旧川にはふだん河川維持用水のみ流し、この旧川はバンジールカナルや空港に向かう高速道路に並行し北上する。そして途中でバンジールカナルの下を伏越で通過し、ムアラカランの火力発電所の脇(西側)でジャカルタ湾に注ぐ。

 次はクルクット川であり、チランダック付近では、約30mの谷を形成している。そう、Jl. Pangeran Antasari とJL.KemangとJL. Bangka間にある谷底を流れていて、プラパンチャのジャカルタ南市役所の東側を通過して、グレジャサンタとマンパン交差点の中間を北上して、セノパティの北側の低地で、ラグナンの動物園から始まっているマンパン川と合流する。

 マンパン川はラグナン動物園の南に隣接するジャガカルサに源を発する。ガトットスブロト通りに面する軍事博物館の裏(南西)でクルクット川と合流する。

 次は「導水路」と名づけられた人工水路であり、スレンセンサワという人工湖の上流から始まっている。だからこの川だけは高い所にあるのだ。この川はパサルミングーの市場の東側を北上して、パンチョランを上に眺めつつマンガライの駅付近でマラン川(Banjir Kanal)と合流する。

 最後は、チリウン川である。ボゴールからほぼ鉄道に沿って北上し、パサルミング付近で南環状高速道路、チャワンで高速道路の下をくぐり、ジャティネガラ駅とマンガライ駅の中間を通り抜けて、マンガライ堰に至る。
1920年代末に市内を洪水から守るためバンジールカナルが建設され、維持用水を除いてすべての流水はこの堰を通過しバンジールカナルに導かれる。したがってこのマンガライ堰は東京赤羽の岩淵水門(荒川と隅田川の分派)と同じ機能を有する。
 旧川はチキニ、独立広場の東側を通り、東洋最大規模のイスティクラルモスク地点で ハルモ二、グロドック方面へのチリウン・ガジャマダ水路と、アンチョール方面へのチリウン・グヌンサリ水路とに分かれる。
 チリウン・グヌンサリ水路はパッサルバルーを過ぎて一部をチリウン・コタ水路に流しそのまま北上してアンチョール・マリーナでジャカルタ湾に注ぐ。
 チリウン・コタ水路はジャカルタコタ駅の手前でチリウン・ガジャマダ水路と合流し、その昔パッサールイカンからスンダクラパに入っていた。

 近年の地盤沈下で2000年当時でも、すでに海面の方が河川水面や地盤より高いため自然流下できず、プルイット調整池に流入し そこでポンプ排水される。

  われわれが横切った川のあるジャカルタ南部地域では、岡の上には高級住宅街が、谷底には下層庶民がそれぞれの生活を営んでいる。どちらもインドネシア人なのである。

サイクリングコース
Jl. Pondoc Cabe Raya - Jl. Cabe V - Jl. Pulo Air 1 - Jl. Pulo Air - Jl. Lamongan - Jl. Bandung - Jl. Cinere Raya - Jl. Punak - Jl. Jati Raya Timur - Jl.Pandok Labu - Jl. Margasatwa Raya - Jl. Margasatwa Barat - Jl. Saco Ragunan - Jl. Saco (Kebun Binatang Ragunan)
 この先は動物園へのアクセスを北に上り、南環状高速に沿って東に走ると、Ciliwung川まで出られる。

 Jl. Margasatwa Rayaは北方向の一方通行であるので自動車では逆走できないので注意。
 これらの道路は狭いうえに交通量が多く、オートバイが路地から飛び出してくることもあるので、自転車で走る場合には十分に注意すること。

 また、自転車とオートバイだけが通れる橋があちこちにあるので、このルートだけではなく、集落を突っ切って走れるルートもある。こういうルートを取ると、ジャカルタの「一般人」の生活を垣間見ることができる。

カタカナ・インドネシア語対比表

カタカナ名 綴 り 説明
デポック Depok インドネシア大学のある町。最近独立した市になった
ガンドゥル Gandul テレビドラマ”Si Doel”の舞台になった村。今では住宅地になってしまった
オランカヤ Orang kaya(金持) 日本よりも数が多い
ポンドックチャベ Pondok Cabe 地名:飛行場がある
レンテンアグン Lenteng Agung ジャカルタ南部の地名
カンプン Kampung(集落) 田舎という意味ではない
プサングラハン Pesangerahan 地名
チネレ Cinere 日本よりも素敵な高級住宅街
ルバクブルス Lebak Bulus スタジアムとバスターミナルがある町。近々スタジアムが取り壊され地下鉄のターミナルになる
メラク Merak ジャワ島最西端の町。スマトラに渡るフェリーがある
クボンジェルク Kebon Jeruk メラク高速道路のジャカルタ側の基点の地名
チェンカレン Cengkareng ジャカルタのスカルノハッタ国際空港がある町
グロゴル Grogol ジャカルタ市内西部にある地名
パンカランジャティ Pangkalang Jati ゴルフ場もある土地
ファトマワティ Fatmawati スカルノ大統領の第一夫人の名前をとってつけた病院がある
ポンドックインダ Pondok Indah ジャカルタでもっとも高級な住宅地。
クバヨランバル Kebayoran Baru ジャカルタ南部の古い高級住宅地。今では都市にのみ込まれている。
スナヤン Senayan ゴルフ場やスポーツセンターがある
カリアンケ Kali Angke ジャカルタ西北部にある川。華人が多い
バンジルカナル Banjir Kanal 洪水放水路
クルクット Krukut 地名
チランダック Cilandak 1984年にここにあった海兵隊の弾薬庫が爆発して幾多の死傷者が出た
アンタサリ Antasari 通りの名前
クマン Kemang ホテルもある住宅地
プラパンチャ Prapanca ここに南ジャカルタ市役所が建つことになり、墓地は移転した
マンパン交差点 Mampang Prapatan 地名
セノパティ Senopati クバヨランパルの北側にある地名
ラグナン Ragunan 動物園で有名。以前ここに日本人学校があった
ワルンブッチット Warung Buncit ラグナンから北に向かいマンパン交差点までの幹線道路
導水路 Saluran Air Srengseng Sawahのその上流域の水を利用するための水路
スレンセンサワ Serangseng Sawah 自噴泉をもつ人口湖
パサルミングー Pasar Minggu ジャカルタ南部の中心の一つ
パンチョラン Pancoran セブンアップのような彫像が有名
マンガライ Manggarai ガンビル駅とジャティネガラ駅との中間駅。
マラン川 Kali Malan バンジールカナルの別名。チリウン川とチタルム川からの水をタナアバン付近のカレット堰で堰上げ、プジョンポガン浄水場で濾され水道用水として使われてきた。
現在ジャカルタの上水のほとんどはチタルム川の水をブアラン浄水場で濾し管路で給水
チリウン Ciliwung ジャカルタ市内を貫通する川の名前。
ボゴール Bogor ボゴール農科大学と植物園で有名 
チャワン Cawang ジャカルタ東部にある高速道路のランプ付近
ジャティネガラ Jati Negara 東京で言えば上野駅か赤羽駅か
チキニ Cikini オランダ時代の高級住宅街
パサルバル Pasar Baru オランダ時代から続く旧市街の商店街
グヌンサハリ Gunung Sahari パサルバル東側にある大通り
アンチョル Ancol ジャカルタ北海岸にある遊園地。もとはBina Riaと呼ばれた沼沢地
ジャカルタコタ Jakarta Kota ジャカルタの終着駅
スンダクラパ Sunda Kelapa ジャカルタがバタビアと呼ばれていた頃からの港
ボゴール Bogor 大統領宮殿や植物園、ボゴール農科大学(IPB = Institut Pertanian Bogor)で有名
チャワン Cawang ジャカルタ東部にある高速道路のインターチェンジ付近
ジャティヌガラ Jati Negara 東京で言えば上野駅か赤羽駅。オランダ統治時代はメーステル・コルネリスと呼ばれた

2010-12-14 追加訂正
2015-03-29 追加訂正 竹林さんに川筋についてご教示賜りました。ありがとうございます。

2015-03-31 サイクリングルートを追加

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