嗚呼、インドネシア
25話 熱汚泥噴出(Lumpur Panas)

 東ジャワ州の州都スラバヤ南方に隣接するシドアルジョ県の天然ガス井戸穿孔現場で2006年5月頃に噴出し始めた熱汚泥は、毎日約十万立方メートルを蒸気とともにガス井から噴出していて、国家的問題になっている。
 たまたま、2006年10月21日に帰国途中ちょっと寄ってみた。以下がその写真である。

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手前が三次堤防。その先に池のように見えるのは噴出した汚泥。

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池の先に見えるのは、汚泥被害をギリギリで耐えているプレストレストコンクリート工場。
遠くに見えるのが一次堤防。

061021-03s (組み写真の左)
二次堤防上から汚泥貯留池を見る。堤防の外側にある家屋の屋根と比べると分かるようにすでに汚泥貯留高さは地盤から4m以上に達している。

061021-04s (組み写真の中)
汚泥に埋没した工場建屋。その先に見えるのが一次堤防。高さは地上15mに達していると思われる。
蒸気が噴出しているのが、噴出しているガス井

061021-05s (組み写真の右)
大型のリグが入っているがなにをするためか不明

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二次堤防と三次堤防の間。

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写真右に見えるのが「元」の川。住宅地にまで汚泥が10cm以上入りこんでいる。河川敷の方が住宅の床より高い。
 このガス井はLapindo Brantasというガス採掘会社が穿孔していたもので、工事中に突如熱汚泥が噴出して、同社の技術力では噴出をとめられなくなった。噴出を止める作業を米国の会社に委託しようとしたが、コストの面で折り合いがつかず、そのまま放置されている、

 シドアルジョ地域はブランタスデルタ地帯であり海岸に接するほぼ平坦な湿潤地である。稲作とサトウキビなどを栽培する農業と、海岸地域で行っているエビと魚類の養殖、袋物などの家内工業が主産業である人口が過密な比較的貧困地域である。
今回の汚泥噴出事故で、住宅を失ったもの、農地に汚泥が流れ込み耕作不能になったものは一万人をくだらないだろう。汚泥による水質汚染で海岸沿いの養殖漁業にも影響が出始めている。

 噴出開始直後から乾季が始まり、降雨量が少なかったため汚泥の流出による二次被害は上記の写真程度に収まっているが、例年11月から雨季に入り一、二月には集中豪雨があるので豪雨による堤防決壊などによる二次流失事故が心配される。
現在でも高速道路は汚泥のため片側一方通行に制限されているとともに、並行して走る鉄道線路も土盛りと線路付け替えなどを行うなど大騒ぎになっている。

 汚泥を移動する作業に関して種々の方法が画策されてはいるが、まだ成功したものはない。
 汚泥をブランタス川の水で海に押し出してしまうことも考えられるが、同地域は約10万分の一のゆるい河川勾配であるため流水による汚泥の移動は、大量の河川流量が必要になってくる。ダムから一時的に大量の水を放流することは技術的には可能だが、ブランタス中流域に大洪水を惹起させる可能性が高く採用できない。ただでさえ、水資源が不足しているブランタス川流域では放流後の水利用などにも問題が生じる。

 以下は2010-4-19に追加した分。

 それから四年半。まさかまたここに来ることになるとは思ってもみなかった。これは2010-04-06に撮影したものである。
 2006年には堤防と道路との間にあったすべてのものが泥の海に沈んでしまった。

General View
 撮影地点は2006年の時より約500m南側。180度のパノラマにしてみました。広さがよくわかるでしょう。Google Earthだと2km四方しかありませんが、いまではもっと大きくなっています。遠くに見える蒸気が噴気孔です。噴出孔は一つだけだと思っていたらあちこちにありました。


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噴気孔の手前にも泥が吹いている個所が二か所見える

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観光客相手の写真屋やDVD売りのおじさんたち。
彼らの家もたんぼも学校もすべてこの泥の海の下だ。

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一観光客

2016年8月24日追加分
上の写真は2016年のGoogle Mapから。
 シドアルジョと言えばエビせんべいやエビのトラシが有名だが、この事故が起きる前からエビの養殖は減少していたそうで、この事故によって海に流された原油が混じったヘドロで海岸は壊滅状態になっているのではないかと心配する。

 現在、ヘドロの下になってしまったTanggulangin村は、バッグなどの家内工業が盛んで大量の製品を市場に流していたが、この事故ですべてが失われてしまった。

 地図の下に見えるKali Porongは、ブランタス河の河口デルタの中の一本の支流であった。1970年代にブランタス河にモジョクルト市内でLengkong Baru堰を設け、スラバヤに流入しようとする洪水を放水路であるこのポロン川に転流させた。この堰と上流部に同時期に建設されたスタミダムのおかげでスラバヤの洪水被害が劇的に減少したのであった。

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2006-10-20 作成
2010-04-19 追加
2015-03-07 修正
2016-08-24 追加修正
 

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