インドネシア不思議発見
43話 ルピアの価値

  前にもお話しましたが、筆者が最初にインドネシアの土地を踏んだのは、1976年11月にジャカルタ事務所転勤を命じられた時でした。今ではもう厚顔ですが、その自分にはまだ「紅顔」の独身青年でした。独身の素敵な日本人が赴任してきたということで、事務所や取引先の独身女性の間でひとしきり話題になりました。ということはさておいて。

その当時と2002年07月30日現在の物価をRpで比べてみると次のようになります。

項 目 2002年7月30日 1976年11月 比率
  (a) (b) (a)/(b)
一ドルの価値 9,300 415 22
一円の価値 79 1.5 53
寮の食費 900,000 20,000 45
乗合バス運賃 1,000 25 40
ガソリン代 1,450 50 29

 ご存知のようにこの二十年間に日本円は米ドルに対して2.5倍に切り上がっていますが、ルピアが米ドルに対して下落したので、けっきょく円はルピアに対して53倍も切りあがってしまいました。76年当時でも日本人がジャカルタには一万人いたそうですから、カラオケ等の商売が繁盛していても当然だったのですが、ルピア換算で日本人の給与がまだ低かったために、今のような高額の遊興費までは捻出できなかったのではないだろうかと想像しています。
 物価の表を見ていただくと分かるように、燃料代がそのコストに直接響くものは二桁の値上がりをしていますが、それが余り響かない寮の食費とはいえども贅沢になったためか二桁の変化をしています。寮の食事の質はこの20年間に相当良くなっています。
 ということは、食料の値段が円に換算すると安くなっているということが言えます。このしわ寄せはどこに行ったかというと、農産物の価格を政府が抑えていることになり、従って農民に行っていることになります。どこの国でも大衆に経済政策の失敗はしわ寄せされるものなのですね。

 五万ルピア札を見てつくづく考えてしまいました。これが千円札と同じ価値かと。五万ルピアをインドネシアで普通の生活で使う限りは、日本で使う五千円以上の価値があります。こんなに価値が違う「お金」というものはいったいなんなんだろう、と考えてみました。
 通貨というものは、それを発行している政府の保証書ですから、考え様によっては株券や社債と同じ事になります。すなわち経営がうまく行っていない会社の株や社債の価格は下がるし、その会社の振り出した手形の割引率もとても高くなります。すなわち、紙幣というものは、それを発行している国家と政府の信用度によって他国の通貨との換算率が違ってくるということではないかと思います。日本は経済的に安定・発展したのでドルに対して円が切りあがりましたが、インドネシアは経済的に安定・発展しなかったのでルピアが外貨に対して切り下がったと考えられます。
  1997年夏から始まったアジアの通貨危機は、もちろんバブル経済の破裂ということも言えますが、経済の体質が弱いこととその基礎の深さが浅いインドネシア経済を直撃し、悪く言えば粉飾決算がばれてしまった会社の株が暴落してしまったようなものとも言えるのではないでしょうか。今回の橋本首相のインドネシア訪問は債権者がこのような会社を訪問して再建策を練るようなものではないでしょうか。株なら「清算ポスト」に入れてしまうような、破産宣告をしに来たとは思いたくはありません。98年3月15日現在、スハルト大統領は国内(社内)ばかりに顔を向けていて、債権者のコンサルタント(IMF)の言うことを聞こうとしていません。京都大学教授のいうように、98年7月までの新政権の経済政策いかんでは、インドネシアが世界大恐慌の引き金を引くことになるかもしれません。

 覚えている限りでは、ルピアの換算率は平均して二年半に一回50%切り下がっていました。しかし、通貨危機が始まる前のここ約十年間は対ドルレートに余り大きな変化がありませんでした。それまでの経緯から言えばこの間に三ないし四回の切り下げがあっても当然でした。

 仮に四回切り下げを行ったとすると、1.54 = 5.06、三回でも1.53 = 3.38分の一になっているはずです。ですから、88年当時のレートの\1=Rp15にこれらの係数を乗じてやれば、「歴史的必然性から見たルピアの適正レート」が出てこようというものです。これは単なる数字のおアソビですが、なんとなく納得させられる数字です。
 生活基礎物資は、自給自足できるものもありますが、そのほとんどが国際商品です。これらの中で直接に通貨交換率の影響を受けるものは、その物資に対する必要度が国によって変わらなかったり、その国の政策が直接影響しにくいような物資、例えば、石油、天ぷら油があげられます。特に天ぷら油は日本と同等の品質のものを買おうとすると、ジャカルタでの価格と、日本で大安売りをした時の価格と余り違わないような記憶があります。

 2002年から13年後の2015年に同じ項目を調べてみたところこのようになりました。
項 目 2015年3月5日 1976年11月 比率
  (a) (b) (a)/(b)
一ドルの価値 13,000 415 31
一円の価値 108 1.5 70
寮の食費 2,200,000 20,000 110
乗合バス運賃 4,000 25 160
ガソリン代 7,600 50 152

 ここ数年間円安傾向が続き、1ドル80円台であった円貨は約120円前後で推移しています。この円の弱含みな傾向がすでに上の表には入っているのですが、ここ40年間では円が70倍になっているのに対して、ガソリン代が152倍となっています。バス代160倍になっています。

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1998/03/15 作成  ジャカルタにて
2000/10/20 訂正  スンガイダレーにて
2002-07-30 更新 読みやすく改訂
2015-03-05 修正
 

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