インドネシア不思議発見
38話 にわとり考

 インドネシアの鶏のほとんどは、日本で見かける白色レグホンではなく、名古屋コーチンや四国の尾長鳥に似たayam kampungと呼ばれる地鶏です。身体は小ぶりですが、毎日運動させているために、味が良くて肉が締まっていて硬いのが特徴です。日本の農村地域でも昔は自分の家で鶏を放し飼いにしていました。肉の味は両者とも良く似ているとのことです。

  ジャカルタの日本人の奥さんが行くような店で売っている鶏の精肉はほとんどブロイラーで、どういう訳かayam negeriと呼ばれています。この鶏肉は大型で煮物にするのには良いのですが、水っぽくて、しっかりした鶏の味がしません。一方、地鶏は小型で肉が締まっていて脂肪が少なく、味が良いのですが、肉が硬いので焼きすぎるとおいしくありません。レストランのNy Suhartiはこのayam kampungをつかっています。またブロックM南端のPasar Kagetに出ている ayam kalasanもなかなか美味しいものです。地図にはPasar Kagetは出ていませんから、ジャカルタを良く知っているインドネシア人か日本人の友人に尋ねてください。夕方早くに行かないとayam kalasanは売り切れてしまいます。またこの場所にはたくさんのayam kalasanのwarungが出ています。その中でもお勧めは黄色の回転灯が付いている屋台です。
  市場で買ってきて、飼いはじめた当初でも、ほとんどの鶏は夕方にはちゃんと鶏舎に戻っています。でもたまには、素敵な相手を見つけたのか、自宅に戻ってこない鶏もいます。ちゃっかりよその家に上がり込んで、「ぼく。もうずーっとここの家の鶏なんだよ」なんて顔してしまうずーずーしいのもいることはいますが数の上では余り多くありません。
 朝、鶏舎の扉を開けると卵を暖めなくてはいけないはずの母鳥が飛び出して、夕方まで卵はほったらかしです。
 がちょうの場合は昼間でもしばしば母鳥が卵の上に座って卵を暖めていましたが、鶏の場合には、昼間は自分がえさを捜すばかりで、自分の卵のことはすっかり忘れているようです。夕方になって鶏舎に戻ってくると、母親顔してちゃっかり卵の上に座り込んでいます。子どもはほったらかしで自分ばかり遊んでいるどこかの国の一部の母親に似ているとは思いませんか。
 雄鳥はというと、鶏舎を嫌いその付近の木の枝の上で夜を明かすものもいます。しかし、夜の間は酸素を吸って炭酸ガスを吐き出す呼吸を木はしますから、雄鳥が木の枝で夜明かしすると酸素不足で窒息して木から落ちることがあるとも言われています。マユツバものですね。
 雄鳥は朝を知らせるトキの声をあげるものと決まっていますが、朝三時半頃から「こけこっこー」と騒ぎはじめます。朝四時半のスブーのアザーンの為に起きなくてはならない人の目覚し代わりになっているのでしょうか。近所の雄鳥たちの「こけこっこー」が一巡すると、「アラーフアクバル」がはじまります。朝五時半ころまではまだ静かですが、その後はもうちょっと寝ていたいとおもっても、近所で朝ご飯の用意や鶏舎から解き放たれた鶏やがちょうが「こけーっ、がーがー」と騒ぎはじめるのと、いつまでものそのそしている子供たちを急かせる声がまわりから攻めてくるので、なにか寝てちゃいけないような気がして、ついつい起きてしまうのです。

  卵が孵化してひよこが歩きはじめると、母鳥はひよこたちを守ろうとします。あまり子供たちを母鳥と一緒にしておくと、母鳥は次の卵を産まないようになります。ここは日本を含めた先進国の母親にも似ています。われわれの目からすると、よその鶏のひよこも自分の家のひよこも変わりなく見えるのですが、母鳥にはちゃんと分かっているらしく、餌場に集まってくるよそのひよこをちゃんと識別して追い出すようにしています。
 鶏をじっと見ているうちに、鶏の羽の色とジャワのバティックのモティーフや配色が似ていることに気がつきました。日本の鶏の毛色よりも彩りは鮮やかなのですが、それほど派手でもありません。バティックの濃紺色と茶色のコンビネーションは雄鳥の羽の色からとったのではないかと思われるほどです。

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1999-12-26 修正 スンガイダレーにて 下尾稔氏のご協力を仰ぎました。
2002-07-25 修正バトゥティギにて 文章のアップデート
2015-03-04 修正
 

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