インドネシア不思議発見
33話 鍵について

 インドネシアの人たちはいつも沢山の鍵をじゃらじゃらさせています。これは守衛さん以外は日本では滅多に見られない光景です。余り財産のない女中さんでも自分の部屋の扉、タンス、旅行鞄などにはしっかりと鍵を掛けていますし、事務所の机の鍵なども勤務中には鍵を錠前に差し込んでおいてそれを引っ張って扉の開閉をしているのが一般的な状態です。ですから、古いモデルの木製の机の扉には取っ手がなく、鍵を差し込んで引っ張って開ける構造になっています。取っ手を付けると、机の使用者が取っ手を簡単に壊してしまうのかどうか分かりませんが、とにかく、インドネシア人たちは仕事のあらゆる道具から書類まで全て鍵の掛かる扉や引き出しにしまってから帰宅します。残業している日本人が必要な書類を見ようとしても、全て鍵が掛かってしまった扉の中にしまわれてあり、チェッと舌打ちした経験が筆者には何回もありました。読者のあなたも同じような経験をされていると思います。

  インドネシアに転勤になって、初めて借家に入ったときに渡されるのが鍵の束です。ただてさえ暑くてむしむしして頭がボ−ッとなっているのに、「これはどこの扉の鍵、これはどこの扉の鍵」と言われても覚えていられないほど沢山の鍵の束です。これだけで、ヒステリ−気味の奥さんは「ヒ−ッ」となってしまうでしょう。
 さらにすごいのは家の中の扉も家具も鍵だらけで、卒倒してしまうほど鍵が多く、どれがどこの鍵だか最初の何ヵ月かはとても覚えられないほどです。

 日本では、室内の扉にはほとんど鍵がついていません。これは襖と障子の生活の歴史の影響ではないかと思います。日本で鍵をそれほど使わなかったのは、ここ数百年間にわたって治安が良かった上に、都会では金持ちと貧乏人がうまく住み分けていたこと、田舎では隣近所とのつきあいが密なためよそ者が入ってくるとすぐに分かってしまうということで、小さな区域を見れば、大体均等な社会であったことからであろうかと考えています。鍵を余り掛けないのは、同居人や隣近所の人たちを信じているのだ、という日本の常識ということにもなりましょう。
 一方、世界的な常識から見ると、鍵を掛けることは、まず、自分の財産を守ることになります。鍵を掛けておいても引き出しをこじ開けて物を盗まれた場合は完全な泥棒で、これは運が悪かったとあきらめざるを得ないことになります。

 最初にインドネシアに赴任した時に、女中さんに「出かける前にはしっかり鍵を掛けていって下さいネ」と言われたのです。大して重要な物が入っているわけではない机やタンスの扉と引き出しに鍵を掛けるなんて面倒で嫌だったのです。二回目、三回目と赴任や出張が続いた後で、ようやく女中さんの言った意味が分かってきたのです。
 もし高価な物が机の上や引き出しに無造作に放り込まれていたら、主人が留守の間に女中さんたちの好奇心やいたずら心を引き出して、それをちょっと借りたり、人によっては盗んだりするかもしれません。盗むつもりがなくても、主人たちになくなったことがバレたら、返すに返せないことになってしまいます。
 こんな誘惑心を女中さんたちに起こさせないためにも、大事な物は引き出しやタンスにいれてしっかり鍵を掛けておくことが私たちにとって必要です。悪事の誘惑を起こさせないこともイスらムでの美徳の一つになっているようです。

  赴任当初は頭が混乱していて、自分で何をどこにしまったか忘れてしまい、必要なときにあっちこっち探し回ることがよくあります。その時に鍵が掛かっていると、鍵束の中から、あれでもないこれでもないと合い鍵を探している内にいい加減に嫌になってきます。インドネシア人の店では鍵をどうしてるのでしょうか。それは、主人が肌身離さず持っている一個の鍵でしか開かない扉の中に次の扉の鍵がいくつかしまってあり、その一つで更なる扉を開けて必要な鍵を取り出すようなシステムになっているのです。日本人もこのまねをすれば問題がないとは思いますが、余り鍵の習慣がないのでどの鍵がどのタンスのものだったか忘れてしまうことがよくあります。これには解決方法がなく、ただ「慣れる」だけです。
 もしこんな面倒が嫌だったら、女中さん達から十分な尊敬を得るとともにコミュニケ−ションも良くして、彼女達に余り使わない鍵束を預かってもらうことです。勿論、高価なものはタンスの引き出しの中とか鍵が一つで済むところにしまうことと、盗まれそうな物は、家の中には置かないことです。いくら女中さん達を信用しているからといって、余り高価な物を彼女達には預けないようにして下さい。彼女達の心理的負担が大きすぎて気の毒ですから。
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2015-03-04 修正
 

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