インドネシア不思議発見
27話 インドネシアの食卓

 日本料理に比べてパ−ティ−などで食べるインドネシア料理には新鮮な生野菜が少ないように見えませんか。生野菜は今でも回虫などの寄生虫の問題があり、インドネシア人はスンダ人を除いて生野菜を余り食べません。どこでビタミンCを補給しているのかが不思議です。
 実は肉や魚が多いのは料理だからで、普通の家庭のお惣菜は野菜を材料にしたものがほとんどで、菜食主義者の食事のようです。たとえば、揚げたテンペに野菜の透明なス−プ(sayur bening)とナンカの煮物などにサンバルです。このように繊維分は加熱調理した野菜からとるとしてもビタミンCの源にまだ疑問が残ります。
 また、料理には揚げ物が多く、肉に含まれているビタミンCも熱で破壊されてしまいます。カイケツ病になりそうな食事の内容です。
 インドネシア料理には必ずと言っていいほど唐辛子が入っていて、初めて来た日本人達がその辛さにシ−ハ−するのを見てインドネシア滞在の長い先輩達は「それみたことか」と含み笑いします。実はこの唐辛子に大量のビタミンCが含まれているとのことで、それであまり生野菜を取らなくてもビタミンCが不足しないのではないかと思います。また果物が豊富なのでこれからビタミンCをとることもできます。

 インドネシアでは暑いために疲労が溜まり易く甘い飲み物をとりがちです。するとビタミンCがさらに不足します。人類が生存してきた数十万年の間で自然にある甘いものというと果物でした。果物にはビタミンCがたくさん含まれていて糖分とビタミンCを同時にとれたのです。ここ千年間は砂糖きびなどが栽培されるようになり、人間は大量の糖分をとれるようになったのです。疲れたときにはビタミンCも必要なのに甘い物だけを取っているのは間違いです。

 「鉄の胃袋」を持っているインドネシア人はともかく、日本人もビタミンCが不足しますが、唐辛子をたくさんとることができませんし、果物ばかりでも糖分をとりすぎますので、筆者はお刺身と一緒になるべくたくさんシソの葉を生で食べるようにしています。シソはわりと簡単に栽培できます。インドネシアの土地はほとんど酸性土壌で、この土では発芽した直後に枯れてしまいますから、ホ−レン草をつくっているアルカリ性土壌の畑の土を分けてもらってきてコンポストなどを混ぜてポットで育てるとうまく育ちます。日本では秋になると枯れるのですが、インドネシアでは一年中夏なので一年以上枯れません。ただし最後の方になると葉の元気がなくなってきますから、半年ごとに別なポットに新しく種を蒔いて二株以上育てるといつでも新鮮な葉が手に入ります。コスモ(日本食品店)で買っても大した額ではありませんが、自分の家の庭でとれたものを食べるということは日本ではなかなかできませんから「お試しの価値あり」です。シソに適した土壌だとほとんどすべての種から発芽しますからいっぺんに蒔くのは十粒くらいでやめておいた方が賢明です。種は日本では三月頃から六月頃までにスーパーなどの郊外の量販店で売っています。夏を過ぎると種はありません。日本に残した家族に頼んで郵便で送ってもらうのが一番てっとり早い方法です。これらの野菜の世話は植物が好きな女中さんに任せましょう。唐辛子も一緒に植えなさいというと大体喜んでやってくれます。山椒は太陽の光が強すぎるせいか6本持ってきた苗がすべて枯れてしまいました。なかなかむずかしいものです。

 台所の生ごみは土を入れたポットにいれて、インドネシアで売っているEM-4というバクテリア剤をスプレ−で撒くと二週間くらいで堆肥になります。これを野菜栽培に使うのですまたトイレが臭いときにこのEM-4を撒くと臭いの元になっている嫌気菌を殺し悪臭が消えますのでお試しを。汗の臭いが染み着いてとれなくなったものにもスプレ−するとだいぶ臭いが減ります。1000倍くらいに希釈してスプレ−します。原液は「猫のウンチ」の臭いがしますが、希釈すると芳香に変わります。ポットにいれた台所の生ごみの自家製のコンポストから焦げ茶色の液体が出てきますからこれを集めて悪臭のひどい下水やトイレに撒いてください。特に台所と風呂場の排水を側溝に直接流しているお宅で有効です。また生臭い臭いが部屋にこもったときにもスプレ−すると少し効くようです。

 友人の半可通によれば、アトピ−性皮膚炎は回虫が激減した頃から猛威をふるい始めたとことで、回虫の出す分秘物がアトピ−性皮膚炎の防止に一役買っているのではないかと言っています。
 筆者の末っ子はひどいアトピ−で喘息持ちでした。かれが、二才と二ヶ月目の1986年12月に東ジャワのダム現場に転勤になり、お世辞にもきれいとは言えない政府の官舎に住むことになりました。この住居は遠くにGunung Kawiが見える田園・丘陵地帯にあり、その山の麓にはたくさんの針葉樹が生えていたのです。杉花粉が多い地帯なので、どんなことになるか分からないと、ちいさい彼だけのために軟膏やら飲み薬やら、それこそ馬に食わせるほど持ってきたのですが、最初の数日使っただけで、アトピ−は一週間で、喘息は一月ほどで症状がおさまったのです。喘息がおさまった頃には醜いアトピ−の痕もきれいに消えてしまいました。この地域はまさしく、回虫の繁殖し易い環境でした。息子のお腹には回虫がいませんでしたから、回虫の分泌物がアトピ−の症状を抑えるとは思えませんが、回虫が住みたがるような環境はアトピ−にとっては悪環境になるのかもしれません。また、この時には野菜も虫の食った痕のあるような「有機低農薬栽培」ものばかりでしたから、それが有効に働いたのかもしれません。こんな田舎では野菜は片手間に栽培しているので化学肥料も農薬も余り使われておらず、結局「有機低農薬栽培」になってしまうのです。
 「虫も食えない野菜をたべるとは信じられない」と、日本でも野菜農家の人たちが言っています。彼らは出荷用と自分用に別な品種の野菜を植えて、自分たちは虫の少し食った美味しい野菜を食べています。この野菜には「味に根性がある」感じがしました。

 日本の冬場にインドネシアに来るとインドネシアの野菜が美味しいのに驚きます。都会で育ってきた日本人には野菜の新鮮な味や米のうまさはあまり分かりませんが、自分の家庭菜園で丹精込めて育てた野菜と味がよく似ています。インドネシアで生野菜を堪能したかったらlalapanをレストランで注文するなり、コックさんにつくってもらえばいいのです。一番大変なのは野菜につけるsambalを作ることなのですが、彼女達の分も一緒に作らせれば喜んでつくってくれます。Lalapanには長豆(生食用)、キャベツ、キュウリ、野菜トマトとKumangiの葉です。Menteの葉も使いますが、これは苦いので好き好きですが日本人には不向きです。

 このsambalには必ずJeruk(柑橘類)を絞って混ぜます。これもビタミンCの補給に役だっているのでしょう。日本からシソの種や山椒の苗を持ってきてインドネシアで家庭菜園を女中さんたちにやってもらっています。これらの葉をもぎって、噛みしめたコックさんが言うにはシソも山椒もjerukの味がするとのことです。試しに筆者もやってみると確かにインドネシアのjerukにも似た味の物があります。きっと、日本人の祖先たちが日本列島にやって来た時に日本では季節的にしかとれないjerukの味が忘れられなくて、これらの日本独特の香辛料を発見し今でも使っているのではないか思われます。

 インドネシアの米は日本のコシヒカリやササニシキに較べると味が落ちます。またパサパサで箸で食べるのもめんどうです。しかし、インドネシアの人が美味しいといわれる種類を試してみると、日本の米屋の米とはちがう、農家の米の香りと味がします。コシ・ササとどのくらい似ているかで米の味を評価しないで、別な米として評価すると確かに美味しい物がたくさんあります。以前バンドンに出張したときに食べていたCianjur Kepalaはジャカルタで買うものに比べて断然おいしいのです。小旅行に言ったときなど、現地のパサ−ルで美味しいと言われている米を買ってきて試してみるのも「インドネシア『舌を使った』不思議発見」になるかもしれません。でも焼き海苔とはまず合いません。インドネシアの米で割と海苔などの日本食品と合う米は東部ジャワで栽培しているJawa Superがありますが、スラバヤで買うものよりも産地に近いMalangで買う方がおいしいものに当たります。
 パサパサだからともち米を入れる人もいますが、味が絶対に落ちます。どうしてもベタベタ飯が食いたいという味盲の頑固者と独身寮で同宿する場合には、別にウルチ米だけを炊いてもらって食べています。食事の後で胃がもたれる場合は、日本米ではなくてインドネシアの米の方が胃の負担が少なくて済みますのでお試しを。

 筆者はグルメではないのですが美味しいものが大好きで海外出張の度に、現地の美味しいといわれている店で現地食を試しています。今までの連載をお読みのあなたはうすうす気づいていらっしゃるとは思いますが、筆者はかなり偏屈で「うまいものと好き嫌いはまったく違う」と言い張って友人たちのひんしゅくを買っています。好き嫌いの多い人に限って味盲に近い口うるさい「小言幸兵衛」が多いことが一般的に言えます。

 どこの地域でも、現地で安価で、常に入手可能な食材から現地料理ができていることをあなたはご存知でしょう。
 インドネシアでは、食用油が椰子の実からいつでも簡単に採れたことと、炊事用燃料が沢山あること、高温高湿の気候で食べ物が腐り易い環境から、揚げ物が多いのではないかと思います。また、唐辛子や胡椒には腐敗を防ぐ役目がありますから香辛料を多用するようになったのでしょう。
 インドネシア料理ではその方法にもいろいろと工夫がされています。料理方法の分類については料理研究家の玉村豊男氏の著書で「料理の四面体」をぜひ読んでみてください。いままでの料理の本になかった、新しい視点から料理をとらえています。
 筆者がお勧めする「これは旨い」というインドネシアの惣菜にはこんなものがあります。
  1.  Ikan mas goreng
  2.  Pangsit kuah (汁ワンタン) これに麺を入れて白湯(パイタン)の雲呑麺にすると旨い。
  3.  Capcai goreng(野菜炒め。ブロッコリ-とつみれと海老が入っていてご飯に乗せて中華どんぶり!)
  4. Gule ayam 山羊のグレは脂肪が多くて筆者は嫌いです。
  5. Bumbu Bali
  6. Kering Tempe (栄養満点のふりかけ。Tempe keringとは全く違うものです)
  7. Padang料理の小海老の辛子煮 (Petehが入っているもの)

[参考文献]
  1. 「地球を救う大変革」とその(2)がある。比嘉照夫著 サンマ−ク出版刊
  2. 「EM環境革命」比嘉照夫総監修 総合ユニコム刊
  3. 「料理の四面体」 玉村豊男著

《おまけ》
 米を加熱調理するのには「炊く」だけではなく、ゆでる、蒸すなどの方法があります。ご飯を炊くのは少し前までは日本人だけだったのです。インドネシアでは以前は米をゆでていたのですが、日本人が発明した電気釜が普及したおかげでインドネシア人だけではなくイラン人たちまでも「炊く」ご飯に味覚が変わり始めています。おまけに、イラン人たちは「おこげ」が大好きで、おこげがわざわざできる炊飯器もあるそうです。
 調理方法にもそれとは気づかれずに日本文化の影響が世界に深く浸透しているのです。
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2015-03-xx 修正
 

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