インドネシア不思議発見
24話 インドネシア語で遊ぼう

 あなたの回りのインドネシア人たちは、まずインドネシア語で会話をしていると思います。そうでないのは親しい間柄の同じ部族の人たちです。たとえばジャワ人はどうしてもジャワ語の方が話の意味がぴちっと決まって話し易いらしいのです。またバタック人は兄弟で話す時にも相手を尊敬する意味でバタック語を使うことになっています。インドネシア語自体が戦中から普及し始めたものですから、まだ使われている歴史が浅く、繊細な感情の表現などは自分の母語(ジャワ人ならジャワ語)で話すのが一番楽なようです。われわれ日本人はともかく、インドネシア人自身でもインドネシア語で正確に表現するのは難しく「隔靴掻痒(かっかそうよう)」です。戦争直後にはインドネシア語は今のマレ−シア語に似ていましたが、この50年間にジャワ語がたくさん入り込んできています。マレ−シアで通じないインドネシア語はジャワ語が語源の言葉だと考えるのが良いようです。

 今回は、まだ発展途上にあるこのインドネシア語で遊んでみようと思います。
1. 早口言葉
 日本人はLとR、 EとU、NとNGの発音の区別が普通はできないので、口慣らしにこんな練習をしています。意味は参考用です
Jarang jalan-jalan. (たまにしか散歩しない)
Pelan-pelan pulang dari perang. (ゆっくりと戦争から帰る)
Dilarang pakai peralatan olahraga seluruh keluarga. (家族全員で運動用具を使ってはいけない)
 これを全部まちがいなくすらすらと言えるようになったら最高ですが、まず相当の努力が必要です。「しゃ」行と「さ」行の区別がありませんから、インドネシア人にLとRの発音でいじめられた場合には、彼らに日本語の「商社の捜査」「表彰状の表装」などと言わせると、「お返し(復讐)=Balas dendum」になります。

2. 体の名前を使った表現
エッチな意味ではなく、日本語と同じように体の部分の名前を使ったものがたくさんあります。おもしろいものをあげてみます。

kepala batu = 頑固/石頭、besar kepala = 高慢/頭でっかち
otak udang = 汚物ばかりが脳に詰まっていてまともなことが考えられない。
muka tembok, kuping kebo, kulit badak = 鉄面皮、馬耳東風で心臓に毛が生えているほど、ズ−ズ−しいこと。この三種類を続けて言うと効果的です。
mata air = 泉 ただし、air mataは涙です
mata cincin = 指輪の石
mata hari = 太陽
mata ikan = 日本語と同じくウオノメ
mata kaki = 足にあるウオノメではなくてくるぶしのこと
mata kayu = 木の節「またかよう、間違えてあんたの眼は節穴か」と覚えます。
mata keranjang = スケベ・プレイボ-イ/ガ-ル、バスケットにはたくさん目があるから
mata mata = スパイ
mata sapi = 目玉焼き、でも普通はひとつだけなのに。 このまえ、黄身のくずれた目玉焼きをグスドゥールと呼んだらしっかりと睨まれてしまいました。
mata uang = 通貨の単位(Rpや$)など。ただし、良く似ているmata duitanは全然意味が違って、お金に汚い我利我利亡者。守銭奴のこと。「エルペアン!」って言ってやるとより効果的です
besar hidung = 自慢する、日本語では鼻が高いこと
hidung belang/hidung putih = 鼻白むではなくて女好きのプレイボ-イ
hidung panjang = 物理的に鼻が高いが、眉間から鼻の頂点までが長い
hidung mancung = 物理的に鼻が高い。両方とも美形を意味する。
tajam hidungnya = 鼻が利く
banyak mulut = おしゃべり
berat mulut = 口が重い
besar mulut = ほらを吹く
lebar mulut = 大口をたたく
mulut manis = 甘い言葉を吐く
berat bibir = 口数が少ない
panjang bibir = おしゃべり、告げ口をする
tebal bibir = 口が重い
tipis bibir = 口が軽い、おしゃべり
empat bibir = 女性がおしゃべりな理由
kaki tangan = 秘密のシンジケ-トなどの手下。マレ−シア語では純粋な部下の意。
panjang tangan = tangan panjangは長袖ですが、これは盗み癖があるの意。
cuci tangan = 責任逃れ
tanda tangan = 署名 (昔は手形を押したのでしょう)
obat maag = 粗末なご飯。日本語では「エサ並みの飯」という謙遜表現
berat pantat = 長っ尻
pantat kening = けちんぼ
siku-sikutan = 肘(ひじ)でむりやり押し退ける。袖にするに近い。
3.  繰り返す言葉
 日本語で繰り返す言葉にインドネシア語と良く似たものがあります。これから日本人の祖先の一部はインドネシアからきているのではないかと筆者は想像しています。
目茶目茶はpecah(ばらばらに壊れる)から。これをつなげるとmemecah-mecahになり、動詞をつくるmeを除くと「めちゃめちゃ」になる。
ぐるぐる巻きのぐるぐるはmengulung(巻く)から。動詞をつくるmenを除くと「ぐるぐる」になる。
べちゃべちゃ(道などが)はbecek(道などが泥だらけの)から。
だらだらはdarah(血)から。血が傷口から流れ出るときはゆっくりと流れるから。
ぐらぐらはgerak(運動)から。Bergerakとは動く・移動する意味。
ぼろぼろはburuk(使い古した)から。あるいはbolong(ジャワ語で「孔・穴」)から。
「しらじらと夜があける」の白は日本語では色ですが、インドネシア語ではsilau(まぶしい)の意味。白いものを太陽の下で見たらまぶしいでしょう。
4. 重複語
 普通使われているrumah makanやrumah sakitなどのタイプ以外に形容詞を強調する表現があります。
kering kelontang = カリカリに乾ききったという意味から、ガリガリに痩せている人をからかう時に使います。
gelap gelita = 真っ暗闇
terang temarang = とても明るい
kacau balau = 混乱した
 まだたくさんありますから興味のある方はどんどん調べてください。こういう表現をたくさん使うとインドネシア語が上手になったような気がしますよ。
5. LとRについて

 インドネシア語ではLとRの発音がきわめてはっきりしていて、LとRの音をまちがえると違う意味になる言葉が英語よりたくさんあります。日本人には頭痛のたねです。ところで、英語をbahasa Inggerisと書いてbahasa Inggelisと書かないのが不思議です。これはLとRの音の守備範囲が英語とインドネシア語とでは違うからではないかと考えています。グラフにするとこんな風になりましょう。

英  語 LLLLLLLLLLLL RRR
舌先の位置 歯の裏側
上顎
インドネシア語 LLL RRRRRRRRRR
[参考文献]
1. 岩波国語辞典
2. Kamus Standar Bahasa Indonesia-Jepang 谷口五郎編 Dian Rakyat刊
3. 日本語インドネシア語辞典 Drs M. Husnan・Suenaga編 Aries Lima刊

【おまけ】これらの日本語とインドネシア語の辞書はまだ不完全ですから、インドネシア語の単語の意味をより深く理解するために、日本で言う広辞苑のようなインドネシア語の辞書、たとえばKamus Umum Bahasa Indonesia W.J.S. Poerwadarminta編等を参照してください。(終)

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1999/12/26 修正 スンガイダレーにて  下尾稔氏のご協力を仰ぎました。
2000/10/16 スンガイダレーにて  ジョークを追加
2000/10/20 スンガイダレーにて  読みやすいように整理
2001/11/18 スンガイダレーにて  スタイルを変更のうえ追加。
2002/8/02 バトゥティギにて 読みやすいように文字を統一
2015-03-03修正
 

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