インドネシア不思議発見
23話 生活の中のイスらム(11)

(もういいかげんにやめとこう)
 なんと、いままでの連載の半分をイスらムについての記事で占めてしまいました。日本人にはイスらムが好きな人よりも嫌いな人の方が多いのですが、これは情報不足による「食わず嫌い」だろうと思います。
 「イスらムについて」の連載を始めたのは、イスらムに入信しろだとか、アッら−を信じろだとかいう意図ではなく、西洋を通じて日本人が入手したイスらムに関するねじ曲がった情報を訂正して、あなたの目から「イスらムへの偏見」という鱗を落とすことによってより広い視野をもっていただきたかったからなのです。
 もう、この頁でイスらムの連載が43頁になりました。興味のない記事を読む読者も辛いでしょうが、書く方はもっと大変でした。フ−ッ。「イスらムについて」はこの話で終わることにします。この連載で仕入れた知識があればイスらムのことをムスりム達と大体の話ができると思います。連載の内容についてもっと詳しく知りたい場合は、この話の最後の[参考資料・文献]にある本を読んでください。たぶんあなたはこれらを読んで筆者と違う感覚をもたれるかもしれません。それが「あなたの個性」なのです。それはそれで良いのです。

1.  暦と曜日の話
 さて、前回までの連載の中で約束してまだ果たしてない暦の話がありましたので、終わらせてしまいましょう。

 世界でいま使われている暦は太陽歴と太陰歴のふたつがあります。
 太陽歴は普段われわれが使っているもので一年を365日とし4年に一回の閏(うるう)年があります。これだけではなく西暦の年号で400で割り切れる年は本来なら閏年のはずですが、例外として365日とします。西暦2000年はこの例外の年に当たります。閏年は地球の公転が365日と1/4よりわずか少ないために、自転と公転の日数の調整ために入れてあるものです。これを発明した人の名前をとってグレゴリオ歴とも呼ばれています。当たり前のことですが、この暦では毎年の春分と秋分が同じ日になり、季節的な洪水などの予測を立てるのに便利です。

 太陰歴は誰にでも分かりやすい月の満ち欠けで日にちを表したもので、大潮・小潮や干満がよくわかります。月の満ち欠けは人間の生理にも関係していてバイオリズムや女性の月経に表れています。また動物も月の満ち欠けに反応していて、満月の前後に蟹はよく動き回りますから肉がほとんどなく買い損ですし、海亀は新月の前後に産卵のため浜に上がってきます。ひと月で亀は孵化して次の新月の晩に満潮に乗って海に戻って行きます。月の満ち欠けは29.5日ですから、これをそのまま12倍すると354日になり、太陽歴に11日足りません。Hari Raya Idul Fitriが太陽歴を元にすると少しづつ早くなるのはこの差によるものです。
もうひとつ忘れてならない暦があります。太陽と月の運行とを勘案した結果最も理論的な暦ですが、世界的にはほとんど知られていません。ペルシャ暦といいます。
 春分の日を元旦として、半年間はすべて一月を30日とします。その後11ヶ月目までは一月を31日として、そのあまりを最後12月に持っていくのです。となるとグレゴリオ暦と同じく2月が最短の月になりますが、最初にできるだけきちんとやっておいて最後に調整するというきわめて理路整然としたやり方です。こんなに理路整然とした人たちが多い中東がヨーロッパの餌食になったということは、政治と理屈は必ずしも一致しないということでしょう。

 中国語では太陽歴を「公歴」、太陰歴を「農暦」あるいは「陰暦」と呼んでいて、東南アジアの「日めくり」にはこの農歴もちゃんと載っています。マレ−シアとインドネシアではムスりムが多いためさらにイスらムの暦も併記されている上、ジャワではジャワ独特の暦まで載っていて、日本の日めくりとはずいぶん違います。Legi, Pahing, Pon, Wage, Kliwonというのはジャワの暦の日の名前です。いつつあるところをみると、陰陽五行説があるのかも知れません。この種の日めくりは普通の商店のレジのところによく掛けてありますから見てください。

 インドネシアの食堂(rumah makan)では趣味が良いとはいえないカレンダ−をずらずらと壁に掛けてあります。インドネシア人はどうもカレンダ−を装飾代わりに使っているようです。

 インドネシアのカレンダ−の一行目には日曜日から土曜日までの名前がMingguからSabtuまで書いてあります。マレ−シアでは日曜日はAhadとなってており、これはアラビア語の数字に関係しています。同じように中国語でも曜日を数字で表しています。でも始まりが少し違うのです。アラビア語では日曜日が1なのに中国語では月曜日が1なのです。ちなみに表にするとこんな風になります。

日本語 インドネシア語 アラビア語の数字 中国語
日曜日 Ahad Wahidun = 1 星期日、礼拝日
月曜日 Senin Ithnin = 2 星期一、礼拝一
火曜日 Selasa Thalathatun = 3 星期二、礼拝二
水曜日 Rabu Alba'atun = 4 星期三、礼拝三
木曜日 Kamis Khamsatun = 5 星期四、礼拝四
金曜日 Jumat Sittatun = 6 星期五、礼拝五
土曜日 Sabtu Sab'atun = 7 星期六、礼拝六

 金曜日だけがインドネシア語とアラビヤ語で数字で示されていないのは、この日が礼拝日に当たっているからです。中国語でもキリスト教の礼拝日の日曜日は「礼拝日」としているでしょう。
  アラビア語の数字とインドネシア語の曜日の名前の子音だけが似ていると思いませんか。そうです。普通アラビア語では子音しか表記しないからです。たとえば、アるハムドゥりら−の「りら−」はアッら−のことなのです。アラビア語の単語の発音を知らないとアラビア文字が読めても発音できないのです。ムスりム達のクルアンの音読の練習用に「あ、い、う、あん、いん、うん」などの母音と促音便があります。現在のアラビア語には「え、えん」の音がありますが、クルアンでは「え」の音がありません。おっと「お」の音はどうしたのかというと母音の中に気取った発音のものがありこれが「お」列の発音に聞こえます。
 また、インドネシア語には英語のthにあたる音がありませんからSの音で代用しているのでしょう。
2. 数珠の話
 驚くなかれ、イスらムでも数珠があるのです。イスらムの数珠はお祈りの回数を数えるのに使って掌では揉みません。インドネシアで買った数珠はしょっちゅう揉んでいるとすぐ糸が切れてしまいます。インドネシア製のシャツを買った時と同じように、糸の材質と強度に問題があるようです。
 数珠は石やガラス製が一般的ですが、木製やプラスチック製のものもあります。Pasar Rayaで買った数珠は12個目に小さい石の区切りが入っていました。これはお祈りを33回あるいは100回繰り返すのでそのために11個で一区切りにしているのでしょう。日本で買った水晶の数珠にも小さい玉で11個目に区切りが入っています。
 日本の超能力者は数珠をふりまわして悪霊祓いをします。数珠の材料には水晶が良いとかいわれています。

 カモカのおっちゃんのザイヌディン師によれば、イスらムでも数珠の材料は天然石が良いとのことで、愛用している数珠には良い霊が付いてお守りになるそうです。天然石でない場合はなかなか良い霊を封じ込める(isi)ことが難しい上に、封じ込めた霊がすぐ蒸発してしまうそうです。天然石といっても使う人によって石との相性に向き不向きがあるので、知識のある人に選んでもらうのがよいそうです。また他人にヒ−リングをしてあげる際に集中力を増してヒ−ラ−をウォ−ムアップするのにもこのisiされた数珠が役に立つそうです。

 宝石については別な話としますので興味のある方はお楽しみにお待ちください。
 (「生活の中のイスらム」はこれでようやく終わりますが、「不思議発見」はまだまだ続くのです)

[参考文献] (順不同)
  1. 「アラビア語の初歩の初歩」 平田伊都子著 南雲堂刊
  2. 「コ−ラン」 井筒俊彦訳 岩波文庫
  3. 「Tafsir Quran Karim」 Prof. Dr. H. Mahmud Yunus
  4. 「料理の起源」 中尾左吉著 NHKブックス
  5. 「現代科学・発展の終焉」村上陽一郎・ひろさちや対談集 主婦の友社刊
  6. 世界の聖典 3「ひろさちやが聞くコ-ラン」ひろさちや+黒田壽郎対談集 すずき出版
  7. 「生命場の科学」ハロルド・サクストンバ-著 日本教文社刊
  8. 「波動の真理」 江本勝著 PHP研究所刊
  9. 「波動と水と生命と」 江本勝著 PHP研究所刊
  10. Pedoman & Tuntunan Shalat Lengkap (礼拝完全手引き書) Abu Masyhad著  PT. MG Semarang刊 Tuntunan Shalat Lengkap & Wiridan dan Shalat-shalat Sunat (義務礼拝、クルアン抜粋付きと任意の礼拝手引き書)
  11. 岩波国語辞典
  12. 入門 般若心経の読み方 ひろさちや著 日本実業出版刊
  13. Tuntunan Puja Bhakti Vajrayana Indonesia (インドネシアVajrayanaお祈りの手引き)  Sangha Agung Indonesia刊
  14. 「風と炎と」 堺屋太一著 文藝春秋社刊
  15. 「日本人・いのちの風光」 梅原猛・ひろさちや対談集 主婦の友社刊
  16. 「『無』ほんとうの強さ」 本荘可宗著 ワニの本 256
  17. 「超ひも理論入門」 F.D.ピ-ト著 講談社ブル-バックス
  18. 「気の人間学」 矢山利彦著 ビジネス社刊
  19. 「お経、Message from the Moon」 CD KICS 2169の解説書 江本勝著
  20. 「イスラム入門シリ−ズ No. 1 礼拝」Islamic Center Japan発行
  21. 「未来へのヒント」 船井幸雄著 サンマ−ク出版刊
  22. 「ファジ−理論がわかる本」 向殿政男著 HBJ出版局
  23. 「アガスティアの葉」 青山圭秀著 三五館刊
  24. 月刊誌「ニュ−モラル」 宏池学園出版
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2015-03-03 修正
 

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