インドネシア不思議発見
11話 結婚と離婚
1. 結婚式と披露宴

 インドネシアの結婚式はイスラム式、キリスト教式、仏教・ヒンズ−教式があり、宗教それぞれで結婚証明書の内容が異なっています。日本人にとってこれがとても不思議に思えます。

 インドネシアでもっとも普通のイスラム式の結婚式についてお話しましょう。

 日本と同じようにAkad Nikaという結婚式と披露宴がありますが、別な会場で同じか別な日に行われます。日本式と大きく違うところがありますので逐一述べてみます。

 結婚式の前には、新郎新婦とも自宅で花びらを浮かべたair kembangという聖水で父母や子供の時から世話になった親戚の人たちに木浴させてもらいます。「ナニナニちゃん、立派になって今日からもう一軒構えることになるんだね−」などと言いながら、親戚一同の前で頭から聖水をかけて洗ってもらいます。大体聖水が無くなったところで新郎新婦は退場していったん着替えます。  着替えの後で父母や親戚の人たちから一匙づつ食事を食べさせてもらいます。「アンタに私がこうやって食べさせてやるのも今日限りだよ。明日からは嫁さん・婿さんにこうして貰いなさい」と言っているようです。いい大人が年寄りから一匙づつ食べさせて貰っているのも変な光景です。一段落した後は新郎新婦がおのおのの親と親戚の人たちにひざまずいて、今まで育ててくれたお礼と掛けた迷惑をお詫びします。

 最後にキンキラキンの衣装に着替えを終わった新郎新婦は各々の親兄弟に囲まれてしずしずと結婚式場に入ります。日本の神式では神主さんが祝詞をあげるのですが、イスラム式ではキアイという指導者がコ−ランの教えの通り数人立ち会い、半数以上の人には訳の分からないアラビア語で祝詞を唱えます。その後で、新郎が結婚金(Mas Kawin)の額を立ち会い人に分かるように大きな声で宣言します。立ち会い人は受け入れるかどうか新婦に尋ね、彼女が「これらの条件でダレソレを私の夫とします」と宣言したところで、立ち会い人の前で新郎が新郎新婦の写真を貼った二通の結婚証明書にサインして、結婚が成立します。この証明書は夫婦一人づつ保管することになります。ホテルなどにチェックインする時にたまに結婚証明書の提示を求められることがあると聞きます。特にインドネシア女性と結婚した場合には奥さんがホテルに出入りする売春婦と間違えられる(失礼な話ですが)ことがあるので、携帯していた方が便利です。以前日本人の新婚夫婦がホテルに投宿しようとしたところ、パスポ−トにのっている名字が違うのでホテルの受付ですったもんだしたことがあるとも聞きます。

 日本とはことなり、証明書に新婦のサインはいりませんが結婚金の額がきちんと書かれています。これは離婚するときに新婦の財産とするためのものです。結婚するともちろん旦那は生活費を稼がねばなりません。奥さんが働いて得た収入は、夫婦の共同の家計には入れずに、奥さん個人のものになります。ひどい男性差別です。旦那の稼ぎが悪い上に女遊びなどにうつつを抜かしていると、奥さんが裁判所に離婚請求することも多いと聞きます。

 スラバヤにお嫁に来た日本人女性がこの通りになってしまい、離婚。旦那のやっていた会社を取り上げて自分で経営したところ会社がどんどん成長して成功しました。このような人もかなりいると聞いています。気配りが日本人とインドネシア人とでは違うこと、日本人女性が経営している会社は珍しいので繁盛しているのかも知れませんが。

 陸路の旅行で家をあける時には三ヶ月、海路の場合には六カ月に一度は連絡しないと離婚の理由になるそうです。筆無精の日本人男性にはとても酷な話です。 
2. 披露宴

 結婚式にもその民族性が出ており、同族同士だとその民族の習慣に従ってやりますが、異民族どうしだとどうするのかは具体的にはよく分かりません。しかし披露宴の衣装はその民族性がよく表れていて、新郎新婦はいうに及ばず親戚までもその民族衣装に身を包むことになります。筆者を勝手に養子にしてしまったお金持ちのジャワ人夫婦の子供が結婚する時には、新郎側の父親が出席する親戚一同の衣装の費用も負担しました。男女併せて約100人でしたが帽子と上着、腰巻き(kain)に身を包みましたから大変な出費になっているはずです。筆者も親戚に入れて貰い、ジャワの民族衣装に身を包むと、会社の日本人の友人だけではなくインドネシア人の友人までも気がつかないほど、ジャワ人になってしまいました。ということはインドネシア人間の個体差が他の外国人との個体差よりも大きいということを証明しています。ちなみに、筆者は日本からインドまでどこにいっても現地人に現地語で道を尋ねられることがよくあります。筆者は平均的なアジア人なのでしょうか。

 男性達の服装も最近はよくなってきましたから、お金持ちの子弟の披露宴にセビロで出席する場合には、会社に普通着ていくイト−ヨ−カド−のツルシではなくてもう少し高級な物を着て行かないと恥ずかしい思いをするほどです。

 この時の披露宴は新婦の実家と、新郎の家のあるジャカルタの会場で二回行われました。お金持ちですから、披露宴の出席者は各々約二千人に上りました。結婚祝いは披露宴の当日持って行ってもいいのですが、普通は事前に両親の家に届けるようです。最近、一般人の場合には現金を贈ることが多くなっているそうですが、まだまだ「物」を届ける方が多いようです。特にお茶のセットなどは何組も何十組も届きますから、新婚生活が落ちついた時点で、余分な品を売ったり孤児院などに寄付することが多いとのことです。

 普通日本人が呼ばれるのは披露宴です。お金持ちや高級官僚の師弟の披露宴には、時間を調整してぜひとも臨席してみてください。このインドネシアのどこにこんなたくさん美人やハンサムがいるのかと驚くほど、「目の保養」になることは受け合います。一般庶民の結婚式にはまず美人が見受けられないところを見ると、美人とハンサムは上流階級に片寄って存在していることがよく分かります。

 自宅で披露宴をやる場合には新しい家具やベッドを新郎新婦の部屋に入れて臨席者に公開します。うす汚い家に不釣り合いな高級ベッドが入っていたりするのを見ると、「ひょっとしてリ−スじゃないかしら」と疑ってしまい、筆者の貧乏根性を反省し毎回、苦笑しています。
3. 結婚の悲劇

 結婚は、男女が好きあって一緒になるのが一番ですが、まだ親が取り決めた結婚などが多く、これが離婚のひとつの原因になっていることは否定できない事実です。

 これには深い経済的な事情があるのです。日本にも戦後の経済復興まであった「口減らし」が最大の原因です。多産で貧乏所帯では大きくなって食費のかかる子どもたちはさっさと出て行って貰わねばなりません。また、経済的理由と子どもの教育に関心が薄いため小学校だけで就学を止めてしまう子供たちがまだ沢山います。読み書きも不自由な小学校卒ではロクな勤め口にありつけないので、田舎の女の子達は十代で結婚させられてしまうことが多いのです。ひどいケ−スではまだ15才なのに既に離婚を三回したというのもあります。政府では結婚の年齢を引き上げて、学校教育を進めるとともに、出生率の低下と離婚も減らそうとはしていますが、なかなか経済的事情が許さないようです。

 また、西ジャワ州のインドラマユ県とそれに隣接した県では、収穫時に結婚するというような習慣があることが有名です。これらの県では余り工業が発達しておらず、収入をもっぱら伝統的な農業に頼っていることから、経済発展が遅れているようです。この地域では天然ガスの採掘が盛んですが、採掘作業では工場ほど一般労務者を雇うことができず、経済が停滞しているのではないかと思います。この地域にすんでいるスンダ人は惚れやすく厭きやすいようで、嫌になったらさっさと分かれてしまう人が多いようです。

 「こんなにしょっちゅう結婚したら、そのうち処女がいなくなっちゃうじゃないか」と聞いても「インドネシアでは女の数が男よりもずっと多いし、処女なんて沢山いるから心配するな」とインドネシアの人たちは取り合ってくれません。これは嘘で、政府統計によると大体男女同数です。生物学的に言えば出生は男児は女児の1.05倍で成人する時には大体同数になるようになっているはずなのですから、おかしな話です。ひょっとすると、金がなくて結婚できないトッカンベチャみたいな男が多いのかもしれません。

 嫁さんは何人目でも、処女でなければ嫌だ、とインドネシアの男性は口々に言います。でも、離婚した女性達は再婚するのだろうか、そうしなければ新しい嫁さんの数が足りなくなるだろうに、と思っていますが、実際はどうしているのでしょうね。ここでも「インドネシアの不思議」が生まれます。
4. 離婚の理由

 インドネシアでは日本と同じように中年の離婚も多いのですが、若年離婚が多いのに驚かされます。結婚後、数年以内の離婚が多いのです。ここでは特に若年離婚についてお話しましょう。

 前節に書いたように、田舎では口減らしの為に女の子を早く結婚させる傾向にあります。従って、中学生の年齢ですでに結婚していたり、ひどい場合は子供がいたりします。生理がくる前に結婚させられてしまう娘もかなりいるようです。この娘達の体付きは大人でも頭と心はまだ子供です。みなさんのお子さんを考えてみるとよくお分かりになると思います。結婚すれば妊娠するのは当たり前の話。旦那も若く思慮分別も足りません。嫁さんはまだ子供です。初めの妊娠には不安がつきものですが、旦那も姑も嫁の世話などせず放りっぱなしですから、嫁さんは不安な毎日を送ります。おなかが突き出してくると、夫婦生活もなかなかやりにくくなるとともに、嫁さんはいらいらしてきて旦那に当たり散らすようになります。その結果、旦那は家のなけなしの金を持って外に遊びに行くようになり、貧しかった生活が益々赤貧に落ち込んで行きます。嫁さんはもう耐えられません。妊娠中と出産後数ヶ月は離婚ができないので、その後に離婚と言うことになります。初回の妊娠で離婚することは少なく、三回目くらいでついに離婚に至ります。離婚の際には嫁さんが結婚金を持っていく権利があるのですが、大した額ではなく一月の食費にも足りません。働かなくては食べていけないので、子供を元の夫の親に押しつけるか、自分の親に託すかして、嫁さんは単身働きにでます。この続きは第十二話「女やもめ」に書きますのでお楽しみに。

 貧乏人の場合はこのようなのですが、金持ちや教育が高い場合でも、旦那が単身赴任などで長く家を空けたりする場合には、嫁さんがきれいだったりかわいかったりすると留守をねらった嫁さんへの誘惑が多いのです。この誘惑に負けて離婚した話も聞きます。

 単身赴任が多い日本人の男性諸兄、日本人の嫁さんをもらって良かったですね。日本人だったらこんなに簡単に離婚はしないでしょうから。日本人の男性は帰巣本能があり、どんなに女遊びをしたとしてもちゃんと奥さんの元に帰ってくるから安心しますね。読者の奥さん達。一概にインドネシア人たちは「耐える」ことが苦手で、気分のおもむくまま行動してしまいますから、インドネシア人と結婚している方々、配偶者をよく見て、彼/彼女をどの程度ほっぽっておけるのかを見きわめた後、仕事も遊びもやるべきではないかと思います。

 50代の日本人男性が若いムスリムのインドネシア娘と結婚することになりましたが、彼女は男性にイスラムに改宗するよう迫りました。この男性はしぶしぶ改宗することに同意しましたが、問題は「割礼」でした。インドネシアではまだ新陳代謝が旺盛な8から10才位で済ましてしまうので、割礼後数日で普通の生活に戻れるのですが、中年だとなかなか傷口が癒えず、一月ばかり初夜がお預けになったとのことです。うつ伏せ気味にそろそろ歩くので女中さんたちにも多いに笑われてしまったとのことです。さらにひどいケ−スは60代の日本人男性で、同じように割礼はしたのですが、傷口が化膿してしまい三ヶ月も使えなかったという笑い話も残っています。こんなこともあるから、皮が長い日本人男性諸兄、子供達の「皮」は高校卒業時点で切りとってしまいましょう。

 海や川で遊んでいる全裸のインドネシアの男の子を見ると、日本人の子供達よりも「皮」が長いのに気がつきます。それで、当然切ってしまうのだと納得したことがありました。

 中東のヨルダンで聞いた話では、割礼は「絶対しなくてはならない」ものではなく、医師が割礼に不適当だと決定した場合にはしなくてもいいのだそうです。
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2015-03-xx 修正
 

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