インドネシア不思議発見
6話 魔術師と魔法
1. 伝統的な医療行為
 近代化したとはいえ、インドネシアではまだ未開な地方が多く、医療的にも福祉が充分全土に行きわたっているとはいいがたい現状にあります。近代的な大病院は大都市にのみあり、地方の一般大衆の為には日本でいえば保健所の診療所のようなPUSKESMAS (Pusat Kesehatan Masrakyatの略)程度しかありません。安いとは言え、PUSKESMASでも診療代を取られる上、医薬分業のこの国では医薬品を薬局で買うことになっていますから貧乏な一般庶民には治療費は大変な出費になっています。

 近代的な病院で診療や治療が受けられるのは、国民のほんの一部のお金持ちか、高級官僚だけなのです。一方、中下層庶民はどうするかというと、PUSKESMASやCLINICで診療を受けた後、なけ無しの金をはたいて薬局で薬を買わなくてはなりません。健康保険のシステムがまだ整備されていませんから、薬代も全額自弁になります。病気治療の補助金のある職場に勤めていれば、少しは経済的に楽になりますが、それにしても一家の経済的負担は大きなものです。

 このような医療施設がある地域はまだしも、町から離れたカンポンにもPUSKESMASはありますが、医師が毎日常駐しているわけではなく、医師の不在日や夜間の急病人は手の施しようがありません。またこのような田舎の人たちは金銭的に不自由で医薬品を買う現金が不足しているような状態です。

 それでは、今の田舎にはこれ以外の医療施設や医療従事者がないのかというと、伝統的な方法で治療を行うDUKUNと呼ばれる人たちがいます。たいてい一つやふたつのカンポンに一人いて、家伝の秘法で症状に合わせた薬を調合したり、マッサ−ジで治療に当たっています。このDUKUNには産婆(助産婦)さんも含まれていて特にDUKUN BERANAKと呼ばれています。一般的にDUKUN自身は、治療・投薬の専業ではなく、農林業や畜産業などの片手間にやっています。これは、患者数が少なく、専業では商売として成り立たないことが第一の理由だと思います。第二の理由として、「医は仁なり」の意識がまだ残っていることと、イスラムでの推奨行為に当たっているため医療行為はその人の社会的な貢献だと考えられていることがあげられます。ですから医療行為に対する料金は、寄付の形でお礼として差し上げるようなシステムを取っています。ものの本によると、中世には欧州でも同じようなシステムを取っていたとのことです。 

2.DUKUNの種類
 DUKUNは大体世襲制で、親から子へ、子から孫へとその技術が伝わっていっています。

 DUKUNが弟子を取っていると言う話は余り聞いたことはありません。実子がいない場合は親戚から養子を取り、その子に処方を伝授します。DUKUNの調合する薬品はその地方で取れる薬草や鉱物などを粉にしたりして、煎じて飲むものがほとんどです。また外傷などには特別なぬり薬を調合することもあります。

 またマッサ−ジによる治療行為もかなり普及していて、友人の中にもかなり沢山の人たちが週に一回は揉みほぐしてもらっています。医療行為に関わっているDUKUNには男性もいますが大部分が中高年の女性で、孫に手がかからなくなったような年代の人たちが多いように見うけられます。薬を調合しているところを見ると何となくおどろおどろしいのですが、副作用が少なくその地域ではやっている病気にはよく効くようです。

 インドネシアの女性達は、出産や加齢による体型の崩れなどを防ぐために若いときから定期的にジャム−という伝統薬を飲んでいます。特に出産の後は、ジャム−の服用のみならず食物禁忌(食べ物の種類の制限)を行うとともに、外用としてSIRIHの葉の熱い灰を下腹部に当てたりして、生殖器官の快復を早めるようにしています。科学的にどんな意味があるのかは分かりませんが、長い経験とヒンドゥ−とイスラムの宗教とともに入ってきた漢方のようなものなのでしょう。

 DUKUNの医療行為には一般の医療行為以外に呪術によるものもあります。日本で言う「お祓い」や「祈祷師」のようなもので、日本で有名なギボアイコさんのような超能力者たちがたくさん活躍しています。インドネシアではこの人達をPARA NORMALと呼んでいます。一人のPARA NORMALがあらゆる病気や外傷の治療を行うのではなく、それぞれ専門があるようで、知っているだけで骨や筋肉専門、内臓専門、高血圧・リュ−マチ専門など各人の得意な分野があり、それぞれのPara Normalの治療所は患者達で賑わっています。このPara Normalは田舎だけではなく大都市にも沢山いて、現代医療では治療できないエイズやリュ−マチ、脳狭搾や脳溢血などによる半身付随の患者の治療に当たっています。もしご希望なら、会社の事務員か運転手や女中さんに尋ねると症状に合わせた専門のPara Normalを教えてもらえると思います。Para Normalの治療行為には彼らが調合する薬を服用することが少ないので、初めての患者でも安心できると思います。体験したPara Normalの中で最も変わっていたのは、足の皮をつっついたりつねるだけで病気を見つけだしたり治療したりする人でした。"Tusuk jari(指でつっつく)"と呼ばれていました。
 これとよく似たことを二年前に日本でカタツカヒカルという人がやって、彼の著書の「ヒ−リングサラリ−マン」という本がヒットしたことを覚えておいでの方もいらっしゃると思います。

 このPara Normalの中には、医療行為ではなく、透視や未来予想などができる人がいるとともに、事故で変形した自動車のボディ−を叩き直さずに手だけで元の状態に戻すことができる人たちもいます。街角でときどき見かけるKETOK MAGICという看板はこのPara Normalによる修理を意味しています。

 POS KOTAなどの大衆向け新聞にはDUKUNの新聞広告が載っていますから、試しにお宅の運転手さんにきいてみてください。たぶん知っています。この国の人たちは新聞広告よりも口コミの方を信用していますから、何につけても新聞広告は余り信用しない方が良いでしょう。

 ジャワ島でPara Normalの有名な地方は、西ジャワ州ではBanten (Kab.Serang)、東ジャワ州ではBlitarとBanyuwangiです。この地方ではそれぞれ他の地方のPara Normalの方がより強力だと信じられています。もちろんジャワだけではなく、スマトラのLampung州やBali州やインドネシア全土に強力なPara Normalがいるそうです。

3.白魔術と黒魔術
 Para Normalには2種類あって白魔術(Ilmu Putih)と黒魔術(Ilmu Hitam)を使う人たちに分かれます。白魔術師とは医療行為や失せ物発見、占い、厄祓い、魔除などを専門に依頼される人たちです。黒魔術師とは他人を病気や死にいたらしめる呪いをかけることができる人たちです。インドネシア人たちは悪魔の力を使う(と信じている)この黒魔術による呪いをひどく恐れていて、対抗上、Para Normalに防御対策をこうじてもらったりしています。白魔術は良い妖霊(Jin)を使い、黒魔術は悪いJinを使うとインドネシア人たちは固く信じています。
 ここに黒魔術にかかった例をみっつ紹介します。恐かったら、読み飛ばして下さい。
   [インドネシア人男性がかかった例]【この話は本人から聞いたものです】

 数年前、お金持ちのジャワ人の親友がLampung州の大学の卒業後Jakartaの自宅に戻ってきました。帰宅後しばらくして40℃の高熱が続き、衰弱し入院しましたが、病院でも発熱の原因が分からず手の施しようがない状態でした。ある晩この入院患者が病院から忽然と消えてしまいました。親戚中大騒ぎになり、数十人が手分けして車で患者の立ち寄りそうな場所を探し回りましたが見つかりません。深夜近くになった時、ようやく患者が見つかりました。見つかった場所はCengkareng空港に向かう道のちょうどDKI(Jakarta特別市)と西ジャワ州の州境のあたりだったとのことです。強い風雨の中、患者は裸足で呆然自失の状態でした。車の中で患者は脱走の経緯を話し始めました。
 「病室のベッドに寝ていると、「Lampungに帰っておいで」と繰り返す声が聞こえた。そのあと何物かにあやつられるように病院から抜け出して州境まできたらしいが記憶がまったく無い。州境でふと、我に戻ったところでおじさんたちに見つけてもらった」と。
 その翌日、親類の中のFlores出身のPara Normalが患者を病室に訪ね、「スマトラから強力な呪いがかかっている。だから病院を抜け出したり、骨髄液からも病原菌が見つからないのだ。この呪いは彼に片思いした女性が依頼したものだろう」とのお告げがあり、このPara Normalが患者にお祓いをした翌日、骨髄液の検査で病原だったビ−ルスがみつかり、この患者はめでたくその後2週間で退院できたのでした。

 このPara Normalによると、もし友人がスマトラにいたら直ちに死に至ったほどの強力な呪いで、彼がジャワに戻っていたからまだこれだけで済んだとのことでした。
 [インドネシア人女性がかかった例] 【この話も本人から聞いたものです】

 この女性の実父はジャワの田舎でも村長をつとめた程、豊かな農民であったとともに有名なPara Normalでもありました。自室には先祖伝来のクリスなどのおどろおどろしいものが壁にかかっていて、夜になるとそのうちの一振りが白蛇に化けてベッドの上などをしばしばはい回っていたとのことです。この人の長姉は村でも評判の色白の美人で言い寄る男性はたくさんいたのですが、彼女の気にそわず、かぐや姫のように全員を袖にしていました。ある時彼女に振られた腹いせから、数人の若者がオ−トバイに乗って取り囲み彼女を襲おうとしました。危険を察知した彼女のかけ声でオ−トバイは転倒するわ、指一つ触れないのに殴られたように鼻や口から血を流し、ほうほうのていで男達は逃げ帰ったとのことです。

 この人の妹はこのような積極的な超能力こそ持ってはいませんが、ひんぴんと幽霊に出会ったり、悪い霊に影響を受けることが多かったのです。姉とは異なり、妹は幼い頃からいわゆるジャジャウマ娘だったので、親の制止を振りきって一人でJakartaに出てきて女中さんとして主に日本人家庭や独身寮で働いていました。寮で働いていた時、女好きのジャワ人男性がいて、彼女にもしょっちゅうちょっかいをかけていたのですが、鼻にも引っかけてもらえませんでした。好きになった他の若い女中のAちゃんを彼の方に向かせようと、このAちゃんの部屋の前に何かを置いて黒魔術をかけました。この魔術は、最初にそれに出くわした女性に掛かってしまうものだったのです。Aちゃんより早く、早朝に偶然それに出くわしてしまったこの「ジャジャちゃん」がその犠牲となってしまいました。しかし、その結果、「ジャジャちゃん」の別な場所にその呪いの影響が出てしまったのです。転んで痛めた骨の古い傷が十数年たっても直らず、頭痛や肩こりなどに影響が残りました。最近DUKUNで治療を始めたところ呪いが掛かっていることが分かり、Para Normalに調べてもらったところBandung市南部からと、Pelabuhanratuの東側の山の付近から呪いがかかっていることが分かりました。その呪いを解いてもらった結果、彼女の症状が好転し、十数年悩んでいた持病が数週間で完治しそうだとのことです。ついでに、こんな不完全な呪いによって迷惑を被る不幸な女性が二度とできないように、この呪いをかけたふらちなPara Normalを始末してもらいました。
[日本人男性がかかった例] 【この話はまた聞きです】

 十数年前に数人の日本人がバリ島で仕事をしていました。所長と50代の男性、若い社員とあと数人が宿舎を借りて一緒に住んでいました。

 ある時、この50代の男性の顔色が悪いのに所長が気づき、「医者に行ったらどうか」と勧めても、この男性は「どこも悪くない」と、ガンとして拒否するのです。今までは性格が温厚な人だったのになぜここ数週間で性格が突然変わったのか所長は理解できませんでした。

 ここ数週間、寝静まった真夜中に宿舎の中で人が動いている気配がすることをこの所長は気づいていました。ひょっとするとと思い、所長は若い社員にこの男性を徹夜で見張っているように命じました。
 「夜中の11時過ぎにこの男性が自室から音をたてないように出てきて、外へ出て行った。その時の表情は何かにつかれたようだった。気づかれないように男性のあとをつけていくと、海岸に隠しておいた船を引き出し夜の海に漕ぎ出して行った。宿舎に戻ってきたのは午前4時頃だったろう。疲労困ぱいした表情で自室にはいっていった」との報告が翌朝ありました。

 現地の職員に相談すると、その男性は黒魔術にかかっているのではないかとの答がありました。Para Normalに相談したところ、この男性を帰国させないと命が危ないとのことで、若い社員をつけて帰国させることにしました。帰国させられるのに気づいた男性は、帰国したくないと言って子供のように泣きわめきましたが、飛行機にむりやり押し込んだのです。飛行機が滑走路を走っている間じゅうこの男性は声を出して泣きわめいていました。が、飛行機が離陸した瞬間、「なんで俺は飛行機に乗っているんだ。仕事はまだ終わっていないのに」と、我を取り戻して尋ねました。同行している社員が今までの男性の行動を話してもこの男性はまったく記憶がないとのことでした。

 この男性の帰国後、さらに調べてもらったところ、この男性に一目慕れしてしまった女性が隣の島にいて、この男性と結婚するように呪いをかけてもらったために、この男性は二人の新居を作るために夜な夜な出かけて行っていたとのことでした。

[ワンポイントアドバイス]
 日本人のきれいな若い奥さんたちはインドネシアの男性のあこがれの的ですから、余り邪けんにすると、こんな呪いを掛けられるかもしれません。旦那さんがしっかり守ってあげて下さい。日本に帰ったら会社で忙しくて、今のように夫婦・家族と長く一緒にいられません。夫婦の愛をいつくしみ育てたり、子供達と毎日接することができるのはここの生活しかありません。仕事やつきあいはほどほどにして家族を大切にして下さい。 

4.ジン(jin)と幽霊(hantu)

 イスラムによれば、ジンは人間と同じように繁殖しているものですが、我々の見えないものです。アッラ−から見ると天使と同じ資格を持っていて、我々を助けたり、我々に悪さを働くものもいます。ジンとは「アラジンと不思議なランプ」のランプから出てくる大男といえば誰でも分かりやすいでしょう。このジンを使うことができる人たちがPara Normalの中にたくさんいます。

 お化けを意味するhantuは日本語で言えば死霊のことです。イスラムではキリスト教と同じように「世界滅亡の日」と「最後の審判」を信じています。罪の多い人が死んだ後、その魂が「最後の審判の日」まで滞在するべきたまり場に入れず、この世界をさまよっていると信じられています。大体、元墓場だった土地に建っている家や自・他殺のあった家に出没することが多く、出没場所はほとんど一定で位置は10cmと違いませんから、常に移動しているJinとの見分けが「その筋の人」にはつきます。

 Jinは必要に応じて出てくるのですが、hantuは人間が恐がるとおもしろがって、もっと頻繁に出没します。三途の川のところでうろうろしているうちに自分の体が腐ったり灰になったりしてなくなってしまって、もう戻れなくなってしまったかわいそうな霊だと思えば、優柔不断の自業自得ですが、同情ぐらいはしてやりたくなるものです。出没するのは自分を回向(えこう)してほしいからなのです。むずかしい宗教的な儀式はさておいて、挨拶したりして「ウチのおバケのQちゃん」を毎日かわいがってやると、そのうちQちゃんの心が落ちつくせいか、あきれはてるのかパワ−が弱まってきて出てこられなくなります。

 最初は日本人に馬鹿にされると思ってなかなか話さないのですが、実はインドネシア人達はお化けの話が大好きですから、色々と教えてくれる機会が多いと思います。この時のためにジンとhantuはその生まれ育ちがまったく違うことを覚えておいて下さい。

5.ゴ−ストバスタ−ズ・プロジェクト


 インドネシアと同じく日本でもいたるところにお化けがいるのですが、日本では我々はなかなかその存在に気づきません。普通のお化けの出しているパワ−はどちらの国でも同程度なのですが、環境の違いからかインドネシアの方が活動する機会が多いことは確かです。

 ここ数年の研究の結果、この環境の違いは電気・電子機器から発生する電磁波による「お化けにとっての『環境破壊』」が日本では激しく進んでいることによるものではないかという結論に達しました。

 ですから、もしお宅でQちゃんが夜中に現れたり暴れて女中さんたちが恐がっているようでしたら、Qちゃんが悪さをするところに安物の蛍光灯を三日三晩以上つけっぱなしにしてみて下さい。この間は昼でも絶対に消さないで下さい。安物の蛍光灯は悪い電磁波をチョ−クコイルや蛍光管からたくさん出しますので、たいていのお化けはこの悪い電磁波による「環境破壊」で、活動できなくなる程度にその力が弱くなります。お経をあげたり、「佛」という字や「ビスミラ−……」の聖句を出てくるところに書くともっと効果があります。高価なパソコンや電子レンジはもっと有効でしょうが、値段と電気の消費料を考えると蛍光灯がもっとも無難のようです。

 蛍光灯を取り付けた当初はまだQちゃんの力の方が強く、このプロジェクトを妨害しようとします。従って、夜間には蛍光灯が点灯し始めなくなることがありますので、Qちゃんが起き出す日没前には必ず点灯し始めるようにして下さい。この方法が有効なことはわが家で実証済みです。
[ワンポイントアドバイス]

 これでもまだ出没する時は素人の手には負えませんから、事務所のインドネシア人にお祓いをしてもらうように依頼して下さい。下手に素人が自分で処理しようとすると悪い霊が霊的に弱い子供などに取り付く可能性もありますから注意して下さい。この国では「水子の霊のたたり」や、妊娠中に死亡した人の幽霊の話は日常茶飯事です。また、産まれてすぐ殺されてしまう「間引き」された赤ちゃんは死霊となって悪さをすると聞いたことがあります。
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2000-10-20 修正 
2002-03-19 分割化 
2015-03-02 修正
 

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