インドネシア不思議発見
4話 時刻と時間
 時間にル−ズなことに、インドネシアにきて最初に頭にきます。特に時間にきちょうめんな日本人にはストレスの最大の原因になっています。「遅れたっていいじゃないか。時間はゴムのように延びたり、縮んだりできるんだから」とインドネシア人は言い訳をします。この考え方をJam Karet(ゴムの時間)と呼んでおり、まず決めた時間を守らないことが当然のようになっています。

 イザヤベンダサンが言っているように、日本教徒は「時」という怪獣の口から逃れようとその鼻先をヒ−ヒ−言いながら走り続けています。この「決死のランナ−」から見ると、時間にル−ズでのんびりしているインドネシア人がだらしないと思えます。イザヤベンダサンによれば、彼らは「時」という名の怪獣の背中に乗って、「決死のランナ−」をくわえタバコでコ−ヒ−でも飲みながらニヤニヤして見物しているような人たちなのです。

 筆者は人一倍気が短くて、口が悪いものですから、「インドネシアには時計はあるけど時間の観念がない」と言い切ってしまい、よく恨まれます。

 時間よりも人間関係の方が大事だということが、インドネシアの人たちの生活の風習です。時間をたっぷりかけて、全員が納得するまでとことん話し合おうじゃないか、これが仲間内に敵をつくらず社会を円滑に進ませる最高の方法だと考えていて、これをムシャワラと呼んでいます。
 時間と金は別物とインドネシア人は言います。時間は誰にでも平等に神様がくれるが、金はそうではない。というのが彼らの論旨です。イスラムでは金持と貧乏人といる理由を「金を儲けて社会に役立たせるように、神様が人を選んでお金を回してくれているのだ」と言います。従って、金持ちが貧乏人に恵みを垂れることは当然なことなのです。

 堺屋太一氏はその著書の「風と炎と」の中で、人間は「金持ち」と「時間持ち」の二種類に分けられると言っています。「時間持ち」は発展途上国に多く、「予想よりも期待」よってただでさえ失業者の多い大都会に多数の人々が集まってくる。これが所得格差の拡大による「金持ち」と失業や労働時間の短縮による「時間持ち」を作り出しているからなのだそうです。この国では大卒のうちの三分の一は卒業しても就職先がなく失業していますから、ここまでの学歴のない人たちにはさらに多量の失業が出ているはずです。
ジャワには「食えても食えなくても家族の団結を強めよう= Makan Tidak Makan Kumpul」という風習があり、家族の一員のなかで富めるものは恵まれないものを助けることになっています。この国のように公的社会保障がほとんどない場合には、どこでも「頼れるものは親戚・兄弟」になってしまうのは当然のことかもしれません。

 この国でも偉い人やお金持ちは日本人以上によく働きます。しかし、忙しいふりをしては「余裕のない人だ」と軽蔑されますから、事務所ではおうように構えていて、帰宅してからそれこそヒッチャキになって働いています。土日もなくて毎日夜中までというのが普通なのです。でもそのそぶりはいっさい見せないところがここの国での大人(タイジン)なのです。

「忙」という字は「心を亡くす」ということです。この字は実に日本教徒の生活信条にぴったりとあてはまっていることがあなたにはお分かりのことと思います。仕事にかまけるあまり、本当の自分自身をどこかに置いてきてしまったような感じを受けられたことがあると思います。そこで、本当の自分を取り戻そうと始めたのが「オウム真理教」ではなかったのではないでしょうか。それが、日本教徒独特の論理での「信者獲得のための効率主義」から「自己破滅」への道をひた走った結果が事件の根幹をなしているのではないでしょうか。

 究極的な目的地も見きわめずに暴走している超特急に黙って乗っている日本人。「日本人、そんなに急いでどこへゆく!」と言いたくなってしまいます。

 この日本人に対して、インドネシア人たちは「待つのも楽しみのうち」さと割り切って時間に縛られずに悠々と過ごしているのをみて、嫉妬するのは筆者だけではないと思います。


 インドネシア人に「ゴムの時間」だと憎まれ口をたたかれた場合のキツ−イ一発をご紹介します。

 日本の輪ゴムとインドネシアの輪ゴムをおもむろに取り出して、同じ長さであるのを彼らに見せます。次に両方の輪ゴムを一緒に引っ張って、数秒間後に戻します。するとインドネシアの輪ゴムは収縮率が悪いので延びたままになって、日本の輪ゴムよりも長くなってしまいます。「フン、これでもインドネシアでは時間が戻るとでもキミ達はまだいうのかね」というと、インドネシア人たちは笑ってごまかそうとします。

 次の手段は思いきり引っ張ってみることです。もちろんインドネシアのゴム輪が先に切れます。「時間が戻る前に切れてしまった。もう取り返しがつかない、どうしてくれる」とねじこむと、彼らは笑いながらあきれかえって、もうこれ以上憎まれ口をたたかなくなります。[実用新案申請中]  (続く)
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2000-10-20 修正
2002-03-19 分割化 
2015-03-02 修正
 

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